どうも、しけたむです!
この記事では
- 「版画の種類についてざっくり知りたい。」
- 「シルクスクリーンって言葉は知ってるけど、実はよく分からない。」
とお悩みの皆様に向けて、インテリアアートの続編!
版画の種類や特徴について画像で解説します。
版画とは?
出典:はんのーと
▲彫刻刀で板に絵や図柄を彫りローラーで絵の具をつけて刷る「版画」は、小学校の図工で体験した方も多いのでは。
版画(はんが)とは、紙に印刷を行うために彫刻や細工を施した版(はん:印刷のために文字や図形を彫った板のこと)をつくり、版に付着させたインクを紙に転写することで複数枚、同じ図柄の絵画を製作する技法、またはそれにより製作された絵画作品のことです。
版画はその版の仕組みから、以下の4つに大別されます。
- 凸版画(とっぱんが)
- 凹版画(おうはんが)
- 平版画(へいはんが)
- 孔版画(こうはんが)
また、印刷する版面の種類によって
- 木版画
- 銅版画
- 石版画(リトグラフ)
- シルクスクリーン(セリグラフ)
に分類されます。
凸版画(とっぱんが)
出典:浮世絵検索
▲『東海道五十三次 岡崎 矢作之橋』(1833-1834年) 歌川広重
凸版(とっぱん)とは、版の出っ張った部分(凸部)だけにインクをローラーなどで付着させて、紙に版を押し付けて写しとるという版画技法です。
版の材料には、彫刻刀などで彫りやすい木材やゴムなどが用いられます。
▲彫った版の凸部にローラーでインクを付着させ、紙に版を押し付けることにより同じ図柄を複数枚連続して写しとることが出来る。
木の板を版の材料に使う凸版画を特に木版画(もくはんが)といいます。
木版画は江戸時代の日本で浮世絵版画(うきよえはんが)として流行し、葛飾北斎(かつしかほくさい)や喜多川歌麿(きたがわうたまろ)などの浮世絵師が世界的に有名な作品を残しました。
▲歌川国貞が浮世絵版画で描いた木版画製作の様子(1860年頃)
▼浮世絵って何だっけ?てかたはこちらから▼
凹版画(おうはんが)
▲16世紀の凹版による作品『騎士と死と悪魔』(1513) アルブレヒト・デューラー
凹版(おうはん)とは、版の凹んだ部分にインクを付着させて紙へ転写する版画技法です。
凸版の木版画が主流だった日本に対し、西洋美術の世界では凹版が最もポピュラーな版画技法であり、版に銅をつかった銅版画(どうはんが)がルネサンス期以降に発展しました。
そのため、西洋美術において単に「版画」と言えば、「銅を版に使った凹版画」のことを指します。
出典:造ハウ
▲銅の凹版が用いられた銅版画
▼ルネサンスって何だっけ?の時はこちらから▼
凹版の印刷手順は、まず版全体にインクを乗せて、これを布などで拭き取り、凹んだ部分にだけインクが残るようにします。
あとは、この版と紙を重ねてプレスをすれば凹部のインクが紙に転写される、というわけです。
出典:カミレオン
▲凹版と凸版の印刷の違い
この説明だけだと単純に思えますが、実際には版の凹部をどのように作るかによっていくつかの技法があり、大きく直接法(ちょくせつほう:または直刻法(ちょっこくほう))と間接法(かんせつほう:または腐食法(ふしょくほう))に分かれます。
直接法は、版に彫刻刀やニードル(針)で直接凹部を刻み込む方法で、間接法は「酸」などで溶かして版に凹部をつくる方法です。
直接法(直刻法)・・・彫刻刀やニードルで直接版を彫って凹部をつくる
間接法(腐食法)・・・「酸」などで版を溶かして凹部をつくる
直接法(直刻法)
直接法にはエングレービングとドライポイント、メゾチントと呼ばれる技法があります。
エングレービング(エングレーヴィング)
▲『Saint Jerome in His Study』(1514) アルブレヒト・デューラー
エングレービング(エングレーヴィング)とは、15世紀に考案された版画の凹版技法のひとつです。
ビュランと呼ばれる彫刻刀のような硬い刃で銅版に凹部を彫ってゆく技法で、非常に精巧で鮮明な線が現れるのが特徴です。
▲ビュランという先端に固い刃のついた器具を使って銅版に線を掘るエングレービング。
▲エングレービングで彫られた銅版画『ネメシス』(1502) アルブレヒト・デューラー
エングレービングで彫った銅版にインクをつめて紙に転写するという印刷技法は熟練した高度な技術が必要とされますが、非常に細かい線や文字が再現できることで偽造防止につながることから紙幣の印刷にも採用されています。
またエングレービングは凹んだ部分以外の版面はフラットなので、大量の印刷を行うためにプレスをしても銅版が劣化しにくいというメリットがあります。
ドライポイント
▲『Surlingham Ferry – looking towards Norwich』(1842) エドワード・トーマス・ダニエル
ドライポイントとは、15世紀に南ドイツの芸術家によって考案された版画の凹版技法のひとつです。
非常に硬度の高い鋼鉄のニードルやダイヤモンド針で銅版を削って細かな線を描いてゆく技法で、彫られた線は均一ではなく強弱のある独特のタッチとなります。
線状に削って凹んだ周辺は「めくれ(ささくれ)」ができることにより少しだけ突起していて、このめくれにインクが引っ掛かって拭き残されると独特な滲んだ線となるのがドライポイントの大きな特徴です。
しかし印刷をするためにプレスを繰り返すと、次第にめくれが潰れて凹みが小さくなり劣化してしまうというデメリットがあります。
出典:女子美
▲ドライポイントはニードルを立てたり寝かせたりして削った時に「めくれ」が出来るのがエングレービングとの大きな違い。紙にインクを転写するときに次第に潰れて劣化してしまう。
▲ドライポイントで刷られた作品『アリゾナの蜃気楼』(1929) ジョージ・エルバート・バー
メゾチント
▲初期のメゾチントによる作品『アメリ・エリザベスの肖像画』(1642) ルートヴィヒ・フォン・ジーゲン
15世紀に誕生したエングレービングとドライポイントが「線の表現のための技法」であるのに対して、17世紀にオランダの芸術家によって考案されたメゾチントは濃淡の表現に優れていることから「面の表現のための技法」と言われます。
17世紀以降のヨーロッパでは肖像画として用いられましたが、写真機の登場により使われなくなると「忘れ去られた技法」と呼ばれました。
メゾチントの技法は、銅版に「ロッカー」と呼ばれる櫛(くし)のような刃がついた器具で非常に細かな点や線を無数に刻んでざらざらにします。
▲ロッカーを使って銅版に無数の点や線を刻んでいる様子。分かりにくいがロッカーの先端は細かい櫛状になっている。
銅版全体がざらざらになったら、別の器具を使ってこのざらざらを削りながら画を描いてゆき、刷る際には凹んだ部分にインクを擦り込み、凹んでいない部分からはインクを拭い取ります。
こうすることにより、ざらざらが残っている部分はインクが多く擦り込まれているのでインクの色が濃く現れ、ざらざらを削り取って画を描いた部分はインクがあまり擦り込まれないためインクの色が薄くなり、濃淡の微妙な加減を表現出来るというわけです。
間接法(腐食法)
間接法(腐食法)は、エッチングとアクアチントが代表的です。
ちなみにヨーロッパあたりでは、アクアチントを含むすべての間接法を総称して「エッチング」と呼ぶことがあります。
エッチング
▲エッチングはもともと兵士の鎧や兜の装飾技術として用いられていた。この技術を最初に版画に取り入れたと考えられている人物の作品『The Soldier and his Wife 』(16世紀) ダニエル・ホッファー
エッチングとは、銅版の全体を防食(防蝕)材でコーティングしたのち、ニードルを使って防食材を剥がすかのように線描し、画が描けたら銅版を酸に浸して防食材を剥がした部分のみ腐食させて凹部とする技法です。
最後にコーティングした防食材を洗い流して完成となります。
▲腐食液につけて彫刻した線を腐食させる工程。手袋つけないのかな・・・
腐食時間が長ければ凹部の溝が深くなり、線が太くなるので、太くしたい線だけ先に描いて少しだけ腐食させたあと、他の部分を描き足すことにより腐食時間に差をつけて線の強弱を表現しています。
▲エッチングの誕生は16世紀までに遡る。初期のオランダ人アーティストのエッチング作品『The Fall of the Tower of Babel』(1547) コルネリス・アントニシュ
エッチングは凹版画のなかでは最も特殊技能を必要としない技法なので広く普及していて、また有名画家がてごろな価格の作品を提供するためにエッチングを手がけることも多いです。
アクアチント
▲1799年にスペインの画家ゴヤによって描かれた『Chaprichos』は、エッチングによって絵を描き、アクアチントによって繊細な明暗を表現している。
エッチングがニードルを使った「線」の表現技法であるのに対して、アクアチントは「面」の表現技法と言われます。
エッチングの場合は銅版にコーティングされた防食材をニードルで剥がして、その部分を腐食させることで図柄を作りますが、アクアチントは防食材を粉末状にして銅版に振りかけて、銅版の裏から熱して防食材を銅版に定着させた後に全体を腐食させます。
すると防食材の隙間から覗いた銅版部分のみ(防食材が定着していない部分)が腐食され、この腐食された部分はざらざらとしたサンドペーパー(やすり)のような面となり濃い色合いとなります。
▲腐食が強いとざらざらの面となり、濃い色合いとなる。
エッチングのように「線」で明暗を描く技法とは異なり「面」で明暗をつけることにより繊細なトーンを表現するアクアチントですが、あくまで面で明暗をつける技法であるためエッチングなど他の技法と併用されるのが一般的です。
▲アクアチントによる濃淡の表現が美しい『Théatre Royal Italien』(1835)ヴィットーレ・ペドレッティ
平版画(へいはんが)
▲19世紀に描かれた平版画作品。『Borek』(1883) アレクサンダー・ダンカー
平版画(へいはんが)とは、「石版画(せきばんが)」または「リトグラフ」と呼ばれ、その名の通り「石」を版に使った版画技法です。18世紀末にドイツの劇作家によって偶然から発明されました。
油が水をはじく原理を利用していて、脂肪を含んだチョークで石版に画を描き、水で濡らしてから油性インクを塗るとチョークで描いた部分にだけ油性インクが残ることを利用したものです。
▲チョークで描かれた石版(左)と石版から転写した石版画(右)
製作工程は「描画」、「製版」、「刷り」の3工程に大きく分かれ、ほかの凸版画、凹版画、孔版画などに比べると作業が複雑で時間がかかるというデメリットがあります。
しかしクレヨンの独特のテクスチャーや、強い線から繊細な線まで強弱をつけられること、筆による筆感など、描写したものをそのまま紙に刷ることができて、多色刷りにより鮮やかな色合いが出せることなど、平版画ならではのメリットも多いです。
孔版画(こうはんが)
孔版画(こうはんが)とは、微細な穴を通してインクを素材に刷りとる版画技法で、インクが通過する穴と通過しない穴を作ることで図柄を作ります。
その他の版画と異なり、図柄が反転しないのが特徴です。
出典:イイチラシ.BIZ
▲孔版は布や布状のシート(スクリーン)などの穴からそのまま図柄を写しとるので反転しない。
孔版画もいくつかの種類の技法が存在しますが、特に歴史が長く有名なのが、厚紙などに図柄を切り抜いて版を作るステンシルと、絹(シルク)に限らずメッシュ状(透けて見えるような網目の布)を版に利用するシルクスクリーン(セリグラフ)で、ステンシルは「合羽版(かっぱばん)」とも呼ばれます。
ステンシル(合羽版)
▲危険を知らせる看板に用いられているステンシル
ステンシルとは、図柄や文字の部分を切り抜いて型を作り、上から刷毛(はけ)やローラー、スプレーなどで色を塗ったものです。
古くは紀元前、アルゼンチンの洞窟壁画には壁に手をつき、その周りに塗料を吹き付けることで手形を浮き上がらせるというステンシルと同様の版画技術が用いられていて、人類最古の壁画技術であると考えられています。(諸説あり)
▲アルゼンチンのラス・マノス洞窟にある壁面を覆う手形。植物の茎をストローのようにして色土を吹き付けたと考えられている。
古代エジプトでは死者の棺桶の装飾として、古代中国では着物に柄を付けるためにステンシルが用いられてきたとされ、5〜6世紀頃中国と交流のあった日本やインド、ペルシャなどにもステンシルの技術が伝播していきました。
出典:starinkprint
▲大陸から伝播したステンシルの技術は、日本で着物に柄を染めるための技術としてさらに昇華し「ジャパニーズ・ステンシル」と呼ばれ世界を驚かせた。
現代ではイギリスを拠点に活動する匿名の芸術家「バンクシー」のようなアーティストによるステンシルを利用した現代アート作品が注目を集めたのは記憶に新しいところですが、日本の若い現代アーティストたちもステンシルを利用した作品を世界に送り出しています。
出典:Life-designs
▲パレスチナ・ヨルダン川西岸地区にあるベツレヘムの建物に描かれているバンクシーのステンシル作品『ラブ・イズ・イン・ジ・エア』。塗装にはスプレーが用いている。
出典:CURIO
▲奈良県出身のアーティスト「HYKRX(ヒャクラク)」はひとつひとつ自身の手で切り抜いたステンシルを使って、スプレーの濃淡や飛沫を生かした技法で作品を制作している。『privacy (shopping osaka)』
シルクスクリーン
▲シルクスクリーンはTシャツやカバンなどにも手作業で誰でも簡単に印刷が出来て、印刷機を使用すれば大量印刷だって可能。
シルクスクリーンとは孔版画の一種で、布や布状のメッシュ素材の版に絵や図柄の穴を開けて転写したい対象の上に置き、インクをのせて刷り込むことにより転写する版画技法です。
出典:Mitsuri
▲シルクスクリーンは紙や布だけでなく、樹脂や金属を使用した看板や電子機器などにも転写できるため幅広く利用されている。
シルクスクリーンは、イギリスでは「 Stencil Process Printing 」と呼ばれます。
それは1907(明治40)年、イギリス人のサムエル・シモンという人物がジャパニーズ・ステンシルからヒントを得てステンシルを改良したシルクスクリーンを考案し、特許を取得したという、ステンシルに起源を持つ版画技法だからです。
その後、シモンの考案したシルクスクリーンはアメリカに渡り、看板やディスプレイ、映画のポスターなどに利用されて商業的な発展を遂げる事となりました。
出典:Everpress
▲シルクスクリーンを用いて看板を印刷する20世紀初期のアメリカの看板会社
- 難しい技術を必要としない(作業が簡単)
- 大量に複製が可能
- 印刷コストが安い
- 紙や布だけじゃなく樹脂や金属、陶器にも刷れる
- 平面だけじゃなく立体にも刷れる
- 発色が豊か
このような利点からグラフィックアートなどの美術作品へも応用され、1960年代になると20世紀を代表する芸術家であるアンディ・ウォーホルはキャンベル・スープの缶、ブリロ(洗剤)の箱、マリリン・モンローなど、大量生産品や大衆文化をモチーフとした版画作品を大量生産しました。
出典:The Artist
▲1962年8月のマリリン・モンローの死後、ウォーホルは「ナイアガラ」というタイトルの映画からの宣伝写真を使用して、マリリンの50枚の画像で構成されるこの傑作を作成した。『Marilyn Diptych』(1962)
▲アクリル絵の具が用いられたウォーホルのシルクスクリーン作品『キャンベルのスープ缶』(1962)
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次回もお楽しみに!
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