こんにちは、しけたむです。
この記事では
- 「座りやすい椅子ってどんな椅子?」
- 「オフィスチェアとデスクに最適な寸法って決まっているのかな。」
とお悩みの皆様に向けて、
快適な椅子と机の寸法計画について画像でわかりやすく解説します。
椅子の寸法計画
椅子の役割
皆さんは、1日にどれくらいの時間椅子に座っていますか?
私たちは立ったままの姿勢(立位:りつい)よりも、座ったままの姿勢(椅座位:いざい)の方が楽だと思いがちです。
しかし、身体構造を重力の関係で考えると、座った姿勢では背骨が自然なS字形を保つことができずにアーチ形になってしまい、内臓が圧迫されて背骨に大きな負担がかかります。
■姿勢による腰にかかる負担の強さ■
▲立っているよりも座っている姿勢の方が腰への負担は大きい。さらに前傾になっているともう最悪。
このような負担を軽減するのが、椅子の背もたれです。
背もたれには座る人の姿勢を正す役割があるため、背もたれのない椅子に座っていると短い時間でも背もたれが欲しくなります。
その他にも、椅子の掛け心地を左右する主要な要因として次のようなものがあります。
①寸法・角度:座面の高さ、座面の奥行きと傾斜角度、背もたれの角度、背もたれ点の位置などの相互関係。座面が高すぎると太ももの裏側が圧迫され血行を妨げるなど、誤った寸法が人体に悪い影響を与えることがある。
②体圧分布(たいあつぶんぷ):椅子と使用者の接触部(背もたれや座面など)における圧力の分布のこと。圧力が全体に分散するほど、座り心地が良いとされている。
③クッション性:ラウンジチェアなどの休息性の高い椅子に求められるが、姿勢を正しく保つことも人体の休息には重要であり、柔らかすぎる椅子では正しい姿勢を保てないことがあるので注意する。
出典:アットプレス
▲一般的な体圧分布図。黄色と赤色が圧力が強くかかっている部分で、右側の図は圧力が弱く全体に体圧が分散されている理想的な状態。
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座面の高さ
お尻に両手を当てて椅子に座ると、両方の手の平を押す尖った骨があることが分かります。
これを「座骨(ざこつ)」といい、椅子に座っときの左右の座骨の最も下端の部分を「座骨結節点(ざこつけっせつてん)」といいます。
出典:KIZUKI
▲丸で囲んだ部分の一番下端が座骨結節点
この座骨結節点が椅子の座面に接触している部分が「座位基準点(ざいきじゅんてん)」で、椅子の座面の高さはこの「座位基準点から床までの垂直距離」で測られているため、椅子を設計する際の原点ともいえます。
一見、ふたつの椅子の「座面の高さ(SH:Seat High)」が異なっていても、座った際にクッション性がある椅子の場合は、身体の沈み込みが止まった位置(座位基準点)から寸法を測る必要があります。
出典:AD CORE
▲左は固い成形合板(SH420mm)、右はクッションを使った椅子(SH450mm)。それぞれ SH(座面の高さ)は異なるが、クッションのある座面は沈み込みが起こるため、座位基準点がどちらも同じ(SH410mm)になった例。
クッション性のある座面の沈み込みは座る人の体重によって変わるので、同じ椅子でも体重が軽い人と重い人では座位基準点が異なることがあります。
作業用椅子の設計
ゆったりとした掛け心地のラウンジチェアと異なり、「オフィスチェア」とも呼ばれる作業用椅子は背もたれの傾斜が浅くなっていて、背もたれで第2〜第4腰椎(ようつい)付近の「背もたれ点」を支える様に設計すると背骨が支えられ、座りやすく作業のしやすい快適な椅子となります。
出典:東洋経済オンライン
▲背骨(脊柱)には5つの腰椎があり、第2〜第4腰椎付近を「背もたれ点」という
背もたれの傾斜が深くなる場合には、背もたれ点と同時に「胸椎(きょうつい)の下部」と「頭部(頸椎:けいつい)」も同時に支える様に設計するのがベストです。
出典:DAISY
▲背もたれに体重を預ける時は背もたれ点から胸椎下部を「ローバック」、頸椎を「ヘッドレスト」で同時に支えて、背骨が自然なS字を保てるように設計すると身体への負担が軽減される
座面の奥行きは、背もたれに腰が密着した時、座の先端とひざ裏の間にわずかな「あき」ができる程度が良く、あきが無いとひざ裏が圧迫されて座りづらいし、あきが深過ぎると背もたれが十分機能しなくなります。
座面の硬さはある程度硬く平たい方が疲れにくく長時間の作業に適していて、座骨結節点や太ももの裏側に必要以上の圧力がかからない程度の軟らかさがあると、なお良いです。
また、疲れにくい座面(座位基準点)の高さは「下腿高(かたいこう) − 1cm」程度が目安です。
下腿高とは、「床面からひざまでの高さ」のことです。
出典:建築学科のための環境工学
▲上の図では下腿高は「5」のこと。下腿高から1cmを引いた寸法が座りやすい椅子の高さになる。
下腿高の寸法は「身長(H)の4分の1」としても求められるので、座りやすい座面の高さは「0.25H – 1cm」と暗記しておきましょう。
以下に座りやすい椅子のポイントをまとめます。
- 座面の高さが適切(下腿高(0.25H)− 1cm)
- 足裏全体が床についている
- かかとにひざから先の体重が乗っている
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机の寸法計画
机の寸法の決め方
机などの家具は、テーブルとして食器を乗せて食事の場に用いられたり、デスクとしてパソコンを乗せて仕事や勉強の場に用いられたり、家具の中でもお部屋の雰囲気を決める重要な家具の一つです。
机を設計する際は、高さ方向の寸法は人体寸法によって、水平方向の寸法は物や建築空間とのバランスや広さの制約によって決定されるのが一般的です。
机の高さは作業のしやすさや身体に負担をかけないために重要で、それらは椅子の高さと密接に関係があり、ダイニングテーブルもオフィスデスクも同様にこのような考え方が当てはまります。
椅子の高さが「座位基準点から床までの距離」であることは、『椅子の寸法計画』でお伝えした通りですが、机の高さもこの座位基準点が原点となります。
そして、座位基準点から机の天板(食器やPCを乗せるところ)までの垂直距離を「差尺(さじゃく)」といいます。
出典:肩こりラボ
▲差尺は「椅子の座面の高さから机の天板まで」では無く「座位基準点から机の天板まで」であることに注意!上の図の「座高基準点」は「座位基準点」と同じ意味です。
使いやすい机の高さは「適切な椅子の高さ + 適切な差尺」によって決定され、成人男性だとおおよそ「28〜30cm」、成人女性だと「27〜29cm」くらいが差尺の目安です。
差尺の目安の求め方
■デスク仕事や食事の際の差尺の目安
オフィスデスクで書き物やパソコンを使った作業や、ダイニングテーブルで食事を行う場合の差尺の目安は、
「座高(身長×0.55)÷ 3 cm」
で求められます。
身長160cmの人なら、「(160 × 0.55) ÷ 3 = 29.3333・・cm 」となり、「29cm」が差尺の目安となります。
■リラックスする際の差尺の目安
カフェでコーヒーを飲んだり、ゆったりとリラックスして使用する場合の差尺の目安はもう少し低くなり
「座高(身長×0.55)÷ 3 − 5〜6cm」
で求めることができます。
身長180cmの人なら、「(180 × 0.55) ÷ 3 − 5〜6 = 28〜29cm 」となり、「28〜29cm」が差尺の目安となります。
机に関する規格の寸法
事務机の標準的な高さ
出典:タナベ事務機器
事務机の標準的な規格寸法として、日本産業規格(JIS)(※)では「700mm」という高さが参考寸法として規程されています。
※日本産業規格とは
「JIS(ジス)」という通称で有名な、日本の工業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格のこと。
規格を標準化して品質の改善を図るために昭和24年(1949年)に「日本工業規格」が制定され、2019年に「日本産業規格」に改称された。
簡単に言えば、「日本の製品でいろいろな長さや大きさの規格があるとごちゃごちゃして使いにくい!」という意見を受けて、「なら規格を国で統一しようぜ!」という考え方として生まれたもの。
ちなみに JIS は「Japanese Industrial Standards」の略。
この「700mm」という寸法は、1971年に「新JIS規格」として標準寸法に規定されたもので、それまでは戦後に米軍規格のデスクが導入され、当時のアメリカの標準寸法だった「740mm」という寸法が「旧JIS規格」として日本の標準寸法に規定されていました。
1999年、日本産業規格(JIS)による「700mm」という寸法規定は参考扱いとなり、自由に製造メーカーが寸法を決められる様になりました。
また近年、日本人の平均身長も高くなってきたことから「日本オフィス家具協会」では、事務机の高さとして「720mm」という寸法を推奨しています。
出典:AKIRA
▲日本オフィス家具協会で推奨されている高さ「720mm」のデスクの一般的な寸法
学習机の標準的な高さ
出典:三原機工
学習机の高さは、事務机と同様に日本産業規格(JIS)によって寸法が規定されています。
国際標準化機構(ISO)(※)による規格との整合性も考慮され、60mm刻みの高さ寸法規格となっていて、下の表の様に定められています。
※国際標準化機構とは
国際標準化機構( International Organization for Standardization)は、世界各国の国家標準化団体で構成される、1947年にスイスで設立された非政府組織のこと。
「ISO(アイエスオー)」という略称で呼ばれる。
国際標準である「国際規格 (IS : international standard) 」を策定している。
出典:三原機工
▲学習机にも新旧のJIS規格があり、新JIS規格では大幅に簡略化された
ナンタルカのまとめ
■椅子の役割
椅子の掛け心地を左右する主要な要因には、座面の高さや背もたれ傾斜具合などの「寸法・角度」や、どこにどれだけ圧力がかかっているかの分布である(①)、休息性の高い椅子などに特に求められる(②)などがある
■座面の高さ
椅子に座った時の左右の座骨の最も下の部分を(①)という。この(①)が椅子の座面に接触している部分が(②)であり、椅子の寸法を決める際に重要な原点となる。またクッション性のある椅子に座って身体を沈ませた状態の姿勢を(③)と呼ぶ。
■作業用椅子の設計
作業用椅子は背もたれの傾斜が浅く、背骨が正しい位置となる様に腰椎にある(①)を支える様に設計する。椅子の奥行きは、座面の先端とひざ裏の間に指2本分くらいの(②)があるのが望ましい。座面(座位基準点)までの高さは(③)程度にすると座りやすい高さとなる。
■机の寸法計画
座位基準点から机の天板までの垂直距離を(①)といい、使いやすい机の高さは「適切な椅子の高さ + 適切な(①)」によって決定される。成人男性だとおおよそ「28〜30cm」、成人女性だと「27〜29cm」くらいが目安となる。
お疲れ様でした。
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