こんにちは、しけたむです!
この記事では
- 「椅子の張り材に使われる生地について理解したい。」
- 「やっぱり文章じゃなくてビジュアルで確認しないと理解はできないな。」
という皆様に向けて、椅子の構造(張り材)についてまとめて画像で解説します。
繊維織物の上張り材
パイル織物(おりもの)とは?
パイル織物(おりもの)とは、「平織(ひらおり)」か「綾織(あやおり)」で織られた生地の、片面または両面へ「パイル」を織り込んだ織物のことです。
「平織」とは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が交互に交差する最も基本的な織り方のことで、「綾織」とは経糸と緯糸を2本ずつ抜かすなどして交差させた織り方のことです。
出典:着物あきない
▲最も基本的な織り方である「平織」は製織(せいしょく)が容易で、頑丈であるという特長がある。
出典:着物あきない
▲少なくとも3本の経糸と緯糸から成り立ち、織物の表面に斜めの線ができる「綾織」は、手触りの良い質感となるのが特長。
▼平織、綾織はこちらでも詳しく解説しています▼
「パイル」とは織物の表面にあるループなどのことで、パイル織物の最も身近なものにはタオルがあります。
出典:伊織
▲タオルの表面をよく見ると細かいループがあるのがわかるが、このようなループ状のパイルは「ループパイル」と呼ばれる。
パイル織物の種類
出典:tunageru
パイル織物は「ループパイル」と「カットパイル」の2つに大別されます。
「ループパイル」は前述のタオルのようなもので、ループをカットしないことから「アンカットパイル」とも呼ばれます。
「カットパイル」は、織りだしたループパイルをカットして毛羽立たせたもので、「ベルベット(ビロード)」や「コーデュロイ」などの種類があるので後で説明します。
出典:カーテン絨毯王国
▲ループパイルの毛先をカットして揃えたカットパイル。ふわっと柔らかい肌触りが魅力だが、ループパイルより耐久性に劣る。
出典:米坂パイル織物株式会社
▲ループパイルとカットパイルを断面図で見るとこんな感じ。絨毯はループもカットもある。
ベルベット(ビロード)
出典:Amazon
ベルベットとは、絹(きぬ)やレーヨン、合成繊維などの経糸をパイル織りとして、パイルをカットして(カットパイル)表面を毛羽立たせて豪華なボリューム感を出した織物です。
「ベルベット」は英語で、ポルトガル語だと「ビロード」、フランス語は「ベロア」、和名では「天鵞絨(てんがじゅう)」と言います。
▲手触りがよく高級感のあるベルベット生地。
レーヨンや絹といった糸が使用されることから柔らかで上品な手触りと深い光沢感が特長でソファや椅子の張り地、カーテンなどに用いられます。
さてこのベルベット、13世紀にイタリアのベルッティという人物が編み出した生地であることから当初は「ベルット」と呼ばれ、それがベルベットへと変化していったと言われています。
日本には戦国時代にポルトガルからもたらされたため、ポルトガル語の「Veludo(ビロード)」という言葉で定着しました。
かの有名な戦国武将「織田信長」や「豊臣秀吉」らが、ビロードのマントを羽織っていたのは有名な話です。
出典:徳川美術館
▲こちらは豊臣秀吉が羽織っていたと伝えられるビロードのマント。
またベルベットのパイルがない部分に金糸と銀糸で模様を織り出している場合は、特に「金華山(きんかざん)織り」と称して区別しています。
金華山織り
金華山(きんかざん)織りとは、ベルベット生地の一種で、パイルがない部分に金糸と銀糸で模様を織り出した織物のことです。
出典:ディノス
▲金華山織りとは模様を金糸や銀糸で織り出す、立体感のある高級織物である。豪華で美しい見た目とベルベット特有の手触りの良さから、高級な応接間のソファに多く用いられた。
ベッチン(別珍)
出典:Note
ベッチン(別珍)とは18世紀のフランスで生み出された生地で、ベルベットを真似して「綿」を使用して作られていて、現在はポリエステルからも作られています。
素材以外のベルベットとの違いは、緯糸でパイルを作る「緯パイル織り」であることで、ループ状の糸をカットすることで起毛を作ります。
(ベルベットは経糸でパイルを作る「経パイル織」です!)
ベルベットと比べて起毛が短めで光沢感はベルベットに劣りますが、ベルベットより耐久性が高いという特長があります。
出典:Cosaic
▲ぱっと見はベルベットに似ているが、近くでよく見ると光沢感が弱いのが分かる。
コーデュロイ(コール天)
出典:アパレルアイブログ
コーディロイとは、ベッチンと同じ織り方の生地ですが、縦に畝(うね)があるのが特徴です。
出典:モノタロウ
▲黒板消しの消すところに使われているのがコーデュロイの生地
ちなみにコーディロイは「コール天(てん)」という名称でも有名です。
これは「畝(うね)」を意味する英語「Cord(コード)」に「ベルベット(ビロード)」の和表記「天鵞絨(てんがじゅう)」の「天」を付け、「畝のあるベルベット」という意味で「コール天」と付けられたそうです。
出典:TRUSS
▲コーディロイは丈夫で肌触りも良く、ソファの生地としても人気が高い。
モケット
出典:FELICE ONLINE
モケットとは、経糸と緯糸に綿や麻、リネン、化学繊維などを使い、その経糸と緯糸にウールや化学繊維(ポリエステルなど)の糸を織り込んで多数のパイルを作った織物です。
肌触りが滑らかで耐久性が非常に高く長持ちするのが特徴で、長期間にわたり使用される航空機・鉄道車両・バス・高級乗用車の座席の表地や、絨毯・椅子・ソファなどに使用されています。
出典:まいどなニュース
▲電車やバスの座席でおなじみのモケット生地。
また、よーく見ると毛足を短くカットされたパイルが密に直立しているのがわかります。
さまざまな色の糸をパイルとして密に織り込み直立させることによって、繊細な模様を描いているのです。
出典:CESILE
▲耐久性の高いモケット織りは、カーペットや玄関マットなどの敷物にぴったり。
また、パイルの経糸に「モヘヤ(モヘア)糸」を織り込んだ生地を「テレンプ」といい、椅子張り生地の最高級品として重宝されています。
▲テレンプを使用したイームズのラウンジチェア。ちなみにモヘアとはアンゴラ羊の毛を使った織物の総称のこと。
ノンパイル織物の種類
ノンパイル織物とは、名称の通りパイルが無く、生地の表面を毛羽立たせない織り方のことです。
代表的なノンパイル織物には以下のようなものがあります。
緞子(どんす)
出典:加勢田芳雲堂
緞子(どんす)とは、繻子織(しゅすおり、朱子織とも書く)で織った生地の裏地で模様を織り出した織物です。
厚手でシルクのような光沢があり、どっしりとした高級感が特徴で高級織物の代名詞とされています。
繻子織というのは、経糸と緯糸が交差する点を出来るだけ目立たないようにしながら、織物の表面に経糸または緯糸を長く浮かせた織り形の事で「サテン」ともいわれます。
出典:シケンジョテキ
▲繻子織は経糸と緯糸の交差する点が少ないので、摩擦や引っ掛かりに弱いという難点がある。
緞子の発祥の地はシリアのダマスカス地方と考えられていて、そのため緞子を英訳すると「Damask(ダマスク)」となります。
日本へは能楽の衣装や茶道に用いるために南北朝時代末期から室町時代に掛けて輸入されるようになり、江戸時代に大阪の堺に招かれた明の織工から織りの技術が渡来しました。
現在でも椅子の生地や、寺院の調度品などに使用されています。
出典:メイジノオト
▲明治時代、鹿鳴館の竹製の椅子に貼られていた緞子の生地。「竹塗り小椅子」
▼鹿鳴館って何だっけ?てかたはこちらから▼
ゴブラン織
ゴブラン織りとは、古い歴史を持つ手織りの高級織物のことで、この名称はフランスのゴブラン家の織物工房で織られた綴織(つづれおり)のタペストリーを指したことからこのように呼ばれています。
ちなみに綴織(つづれおり)とは平織の一種で、緯糸で経糸を包み込み、経糸を見えなくして緯糸だけで絵柄を表現する織り方のことです。
出典:mikikihara
▲綴織の絵柄を表現するのは緯糸だけで、経糸は緯糸に包み込まれて見えなくなってしまう。
ゴブラン織の織り方は綴織と全く同じで、緯糸に色のついた糸を使って絵柄を織り出してゆきます。
糸の材質は毛と麻が主体で、絹や金糸、銀糸が使われることもありました。
出典:Apollo Magazine
▲王立ゴブラン製作所で製作されたゴブラン織りのタペストリー『Louis XIV Visiting the Gobelins Factory』(1673年)
このような緯糸だけで絵柄を表現する綴織は、古くは紀元前の古代エジプト時代から存在していて、ゴブラン織と呼ばれるようになるのは15−16世紀以降のことです。
現在でもフランスのゴブラン家の織物工場は現役で稼働しています。
▲ゴブラン織の生地が用いられた椅子。緞子やゴブラン織りの生地は、格式高いクラシックな雰囲気を演出することができる。
▼ゴブラン織はこちらでも紹介しています▼
メルトン
出典:elife
メルトンとは毛織物の一種で、太くて柔らかい紡毛糸(ぼうもうし:短い羊毛を寄せ集めて長い糸にしたもの)を経糸に使って平織、または綾織などに織り上げ、加工によって縮ませて、表面の細かい「毳(けば)」を短く刈り取り、ブラシがけをしたものです。
縮ませることによって生地の厚みが増して、弾力性があり、保温性がとても高いのが特徴です。
肌触りの良さからソファや椅子の生地にも好んで用いられます。
▲温かみのあるメルトンの生地は、北欧の寒い地域の家具などによく見られる。
ホースヘア(馬巣織り)
ホースヘアとは、「馬巣織り(ばすおり)」または「毛芯(けじん)」とも呼ばれる毛織物で、経糸に綿、麻、または馬のたてがみの毛、緯糸に馬の尾の毛を平織、綾織、繻子織などで織りあげます。
ホースヘアは18世紀の半ばごろ、イギリス、フランス、イタリアから生地を輸入する必要が無いようにする方法としてプロイセン(現在のドイツ北部からポーランド西部)で最初に織られたと言われています。(諸説あり)
馬の毛を使用しているので硬くて耐久性が高いことが特徴で、家具や室内の装飾生地として2世紀以上にわたって人気の高い生地でした。
▲ホースヘアの生地が張られた椅子。実用的で手入れも簡単なホースヘアは、新古典主義、アンピール、チッペンデール、ヘップルホワイト、ビーダーマイヤー、ヴィクトリア、アーツ&クラフツなど、さまざまな様式の家具の張り地として用いられた。
▲チャールズ・レニー・マッキントッシュなどのデザイナーたちにも愛されたホースヘア。現代では馬の毛の価格が高くなったこともあり、家具の生地にはあまり使われない。
お疲れ様でした。
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