どうも、しけたむです。
この記事では
- 「イギリスのインテリアの歴史に興味がある。」
- 「19世紀のイギリスアンティーク家具が好みです。」
という方々に向けて、
19世紀、イギリスのインテリア様式の特徴を分かりやすく画像で解説します。
ネオゴシック(ゴシック・リバイバル)
出典:Britannica
▲アメリカのシカゴにある『ホーリーネーム大聖堂』は1875年に建築されたネオゴシック建築
ネオゴシックとは「ゴシック・リバイバル」とも呼ばれ、18世紀後半から19世紀にかけて興ったゴシック様式の復興運動です。
リバイバルとは「復活・再生・再評価」を意味する言葉で、このゴシック様式の復興運動はイギリスを発祥とし、18世紀後半にはフランス、ドイツに、その後イタリア、ロシア、アメリカにまで広がりました。
そもそもネオゴシックは、ルネサンスから19世紀にわたる長い間ずっと人気を持ち続けていた『古典主義』の建築やインテリアに対して、イギリスの建築家や理論家たちが
「ずっと同じような建築を造り続けていいのだろうか・・・?」
という批判からスタートしました。
彼らはキリスト教会建築にしか使用されなかった中世のゴシック様式を再評価し、キリスト教会以外の現代の建築設計にも応用しようとしたのです。
▼再評価された中世ゴシック様式はこちらから!▼
ストロベリー・ヒル・ハウス
出典:LONDONTOPIA
1754年、政治家のホレス・ウォルポールがロンドンに建てた中世ゴシック風の自邸が『ストロベリー・ヒル・ハウス』で、ゴシック様式を初めて住宅建築に取り入れたという点で革新的だったこの住宅はネオゴシックの先駆けとなりました。
「ストロベリー・ヒル」というのは、かつてこの土地にあった小さな屋敷から見つかった古文書に記されていた、この土地の古い地名のことです。
▲ストロベリー・ヒル・ハウス内の図書館には簡素なステンドグラスが飾られている
ホレス・ウォルポールは友人たちとともに空想をふくらませ、様々な中世建築から自分好みの建築や装飾を引用し、自宅のデザインを決めていきました。
そして1748年、いよいよウォルポールは建設をスタートすると、約6年の歳月をかけてゴシック風の自邸を造り上げました。
▲ゴシック様式ってなんだっけ?と分からなくなりそうな、ホレス・ウォルポールが独自に解釈したゴシックの豪華な回廊
出来上がった邸宅の当時の評判は本当かどうかは分かりませんが良かったらしく、人々の中世への憧れをかき立てたといいます。
その後、ウォルポールはさらに邸宅の増築を重ね、対称的だった建物は不規則な形態になってゆき、1759年にゴシック風の円塔、1777年には円錐屋根の塔が増築されました。
出典:ストロベリーヒルハウス
▲後に増築された円塔(左)と円錐屋根の塔(中央)
このようなストロベリー・ヒル・ハウスは、イギリスにおけるゴシック様式の流行に決定的な影響を与えたと評されています。
ウェストミンスター宮殿と時計台(ビッグ・ベン)
ロンドンの中心部、テムズ川沿いにある歴代のイギリス国王の居城として使用されていた『ウェストミンスター宮殿』、そして時計台の『ビッグ・ベン』もネオゴシックを代表する建築です。
議会制民主主義誕生の舞台となったこの宮殿は、現在は世界で最も有名な国会議事堂で、かつて王宮だった建物は1834年に火災で焼失し、現在のゴシック様式の壮麗な建築は1860年に再建されたものです。
出典:Catherine’s Cultural Wednesdays
▲ゴシック様式を彷彿とさせる尖頭アーチの大窓と天に向かって垂直に伸びるデザイン
ウェストミンスター宮殿は、全長約265m、1,100を超える部屋、100の階段、中庭数11と、議会政治のシンボルにふさわしい壮大なスケールを誇り、併設されている『ビッグ・ベン』はロンドンのランドマークになっています。
▲ビッグ・ベンはロンドンにあるウェストミンスター宮殿に付属する時計台の鐘の愛称だが、現在では時計台全体の名称として使われている。1859年5月31日完成。
テムズ川に対して水平で、横に長く造られた左右対象のデザインであるウェストミンスター宮殿は、後方から右側にビッグ・ベンを、そして左側に塔(ビクトリアタワー)を置くことによって、テムズ川対岸からの眺めが良くなるようデザインされています。
出典:ArchDaily
▲ウェストミンスター宮殿は目の前のテムズ川対岸からの眺めに重点をおきながらデザインされた。
ウェストミンスター寺院
▲ウェストミンスター宮殿の隣にある『ウェストミンスター寺院』のバラ窓、フライングバットレスは「ネオゴシックではなくゴシック様式のもの」なので注意が必要。
ウェストミンスター寺院は、ロンドンのウェストミンスター宮殿の通りを挟んですぐ隣にある14世紀末に建設された「ゴシック様式の」キリスト教会です。
この寺院をウェストミンスター宮殿と混同してネオゴシックとして紹介しているブログやサイトが多いので十分注意するにゃ。全く違う建物にゃんよー!
出典:WallpaperFlare
▲画像手前のラテン十字の建物が『ウェストミンスター寺院』、すぐ隣が『ウェストミンスター宮殿』
ウェストミンスター寺院はイギリス中世の大規模なゴシック建築で、もともとは11世紀に建設された教会を1245年にフランスのゴシック建築にならって改装されました。
14世紀末までにおおよそ完成しましたが、その後20世紀に至るまで何度か増改築されています。
▲左右対象のデザインが美しいウェストミンスター寺院の荘厳な外観
出典:Flickr
▲寺院のフライングバットレスは何度も補修が繰り返され、その姿を現代に残している。
▲寺院の聖堂には尖頭アーチやリブ・ヴォールトといった中世ゴシックの特徴が見られる。
リージェンシー様式(摂政様式)
▲イギリスの『ロイヤル・パピリオン』は1823年に建てられたイスラムと中国の折衷様式を持つ王室の離宮。当時はシンプルな宮殿だったが、国王ジョージ4世によってエキセントリックな折衷デザインへ変更された。
リージェンシー(Regency)様式は「摂政(せっしょう)様式」とも言われ、19世紀初頭のイギリスで起こった様式です。
アンピール様式の影響を受けつつ、エジプトやイスラム、中国などの異国情緒を取り入れたインテリアが特徴的です。
▼アンピール様式はこちらの記事にて▼
出典:トラベルブック
▲『ロイヤル・パピリオン』(1823年)はドームと列柱が印象的な外観に対し、内部は一転して竹、龍、蓮、塔といった中国的なシンボルや中国風の絵画・文様が随所に散りばめられた、西洋と東洋が入り混じったデザインとなっている。
出典:Contry Life
▲ロイヤル・パビリオンの音楽室はアンピール様式の影響を受けながら、かなり東洋趣向が強いインテリアとなっている。右側の扉の上には竹が曲面上に貼られ、照明には蓮の花、壁紙には龍、暖炉の上にはフランス製の時計と日本製の磁器で作られた燭台が飾られている。
出典:Britannica
▲イギリスのリージェンシー様式の図書館。イオニア式オーダーは古代ギリシャ、アーチは古代ローマの古典様式となっている。エジプト風の家具はリージェンシー様式の代表的な家具作家トーマス・ホープ(後述)の作品。
(※摂政皇太子(せっしょうこうたいし)とは、君主に代わって摂政として君主国を統治する王子のこと。)
トーマス・ホープ
▲作家、哲学者、アートコレクターなど多彩な才能の持ち主だったトーマス・ホープ
リージェンシー様式は、アンピール様式をベースにギリシア、エジプト、トルコ、中国といった異国の伝統的意匠を積極的に取り入れた様式です。
その中で、特にエジプトの意匠を採用してイギリスで活躍した建築家・家具作家がトーマス・ホープ(1769−1831)です。
もともとオランダのアムステルダムの裕福な商社の息子として育ったトーマス・ホープは、エジプト、トルコ、イスタンブールなど様々な国々をまわり、多くの絵画、彫刻、骨董品、本を収集しました。
それらの異国を旅した経験が、彼の作風に影響しています。
出典:MAAS Collection
▲トーマス・ホープが1802年にデザインしたエジプトスタイルのアームチェア。黒檀の木と、金箔が施されたブナの木が使用されている。中央に描かれているのは古代エジプトのイシス神。
出典:MAAS Collection
▲同じくトーマス・ホープが1802年にデザインしたエジプトスタイルの長椅子。4頭の獣はスフィンクスではなくライオンで、その下にはしゃがんだアヌビス神とホルス神が描かれている。シート部分のクッション材には馬の毛が詰められている。
出典:Pinterest
▲トーマスホープが1800年ごろにデザインした『Pier Table』は大理石の天板に、全体は金箔で覆われ、よく見ると下部にはガラスが嵌め込まれているというユニークなデザイン。
ビクトリア様式 (ヴィクトリアン様式)
▲ビクトリア様式の代表的なリビングルーム。ソファやチェアのファブリックには花や植物のモチーフ、壁面は古典様式のオーダーやフェスツーン装飾が用いられ、重厚なウォルナットやマホガニー材が好まれた。暖炉も必須のインテリアアイテムだった。
ビクトリア(ヴィクトリアン)様式は、イギリスのビクトリア女王時代(1837~1901年)の様式で、63年7ヶ月という女王の長い在位期間で古代の古典様式や中世のゴシック、近世のバロックなどさまざまな過去の様式をリバイバル(復活・再評価)し、折衷的に自由に組み合わされたのがビクトリア様式です。
ビクトリア女王の治世時代のイギリス帝国は古代ローマ帝国以上に植民地を広げ、産業革命を経て「世界の工場」と呼ばれました。
イギリス帝国として最も栄華を誇った時代に流行した、自由で豊かな生活様式がビクトリア様式です。
▲近世に流行した家具が置かれたビクトリア様式のリビングルーム。壁面には装飾的な壁紙が、床にはカーペットが好まれた。右側には暖炉が見える。
出典:OLD HOUSE
▲1860年頃のビクトリア様式の住宅。フローリングは塗装された濃い色が使用され、豪華なカーペット、壁には壁紙、装飾には古典様式のドリス式オーダーなどが使用されている。
ビクトリア女王は9人の子供を授かり、夫婦の仲睦まじさもよく知られ、家庭の幸せを尊重する社会傾向の象徴のような存在としても君臨しました。
そのため「ホームスウィートホーム(楽しき我が家)」 という言葉が流行語になり、近代化が進み中産階級が台頭する中で、住宅のインテリアには温かみや親しみのあるテイストが好まれました。
出典:DK Find out
▲19世紀、イギリスの中流階級以上の豪華なカーペットと暖炉のあるリビングルーム。ピアノを弾く母親が座っている椅子の足はカブリオールレッグ(ロココ様式)となっている。
やがてビクトリア様式は、イギリスの落ち着きや堅実さを愛する国民性の中で熟成され、シックな色合いと上品で深みのあるデザインへと洗練されていきます。
▲ビクトリア様式は様々な様式の折衷的な様式である為、同じ時代のダイニングルームでもロココやバロックの影響を受けた華やかなデザインのものもあった。この写真のような落ち着いたイギリスのインテリアデザインは当時の日本でも好まれ模倣された。
ロンドン自然史博物館
出典:Expedia
▲『ロンドン自然史博物館』のファサード。シンメトリーな外観とアーチが連続したアーケード装飾はロマネスク様式の特徴。
ロンドン自然史博物館(英: Natural History Museum)は、ロンドンのサウス・ケンジントンにある世界トップクラスの規模を誇る博物館で、ビクトリア時代である1873年に着工し、1880年に完成しました。
ゴシック建築を思わせる外観を持ち合わせながら、古典様式であるローマ時代のアーケード装飾などが見られるビクトリア様式らしい折衷スタイルです。
▲古代ローマのアーチ、またはロマネスクのブラインドアーケードをアーチでくり抜いたようなデザインとも取れる装飾。小さなオーダーをまとめた使い方はパッラーディオ様式にも通ずる。
▼パッラーディオ様式って何なん?て方はこちら▼
大ホールの天井には、今までの様式では見られなかった鉄骨の巨大なアーチがその構造を支えています。
出典:GoodFon
▲アーチ構造は鉄よりも強靭な鋼(鋼鉄)が使用されるようになった
▼古代ローマの古典様式について「?」ならこちら!▼
ウェッジウッド陶器
ウェッジウッドはイギリスの陶磁器メーカーで、ジョサイア・ウェッジウッドによって1759年に設立されました。
古代ギリシア・ローマの古典様式をデザインに取入れ、浮き彫りの彫刻(カメオカット)を施した『ジャスパーウェア』というシリーズをはじめとした、様々な陶器を製作しました。
優美な作風はジョサイア・ウェッジウッドの死後も受継がれ、現代も英国陶器界に君臨し広く愛用されています。
▲古代ローマで作製された『ポートランドの壺』という作品をモデルにして、ジョサイア・ウェッジウッドが1790年に作製した同名のジャスパーウェア。2つの持ち手がついた壺の表面に、座ってくつろぐ人々が浮き彫りで描かれています。
出典:NEW ATLAS
▲古代ローマで作製されたオリジナルの『ポートランドの壺』。西暦25年ごろのもの。
▼デルフト陶器はこちらの記事でご紹介▼
ナンタルカのまとめ
■ネオゴシック とは
ネオゴシックとは(①)とも呼ばれ、18世紀後半から19世紀のゴシック様式の復興運動で、イギリスを発祥として18世紀後半にはフランス、ドイツに、その後イタリア、ロシア、アメリカにまで広がった。ネオゴシックの先駆けとして建てられた(②)は、住宅としてはじめてのゴシック建築で、イギリスにおけるゴシック趣味の流行に決定的な影響を与えた。ゴシック建築を居城に使用した例としてロンドンのテムズ川沿いにある(③)があり、現在は世界で最も有名な国会議事堂となっている。
■リージェンシー様式とは
リージェンシー様式は(①)とも言われ、19世紀初頭のイギリスで起こった様式。アンピール様式の影響を受けつつ、(②)やイスラム、中国などの異国情緒を取り入れたインテリアが特徴的である。特に(②)風デザインを採用し、イギリスで活躍した建築家であり家具作家の(③)がユニークな家具を残した。
■ビクトリア様式とは
ビクトリア様式は(①)統治時代の様式で、さまざまな過去の様式をリバイバルして折衷的に自由に組み合わされているのが特徴である。「(②)」 という言葉が流行語になるなど温かみや親しみのある住宅インテリアが流行し、後期には落ち着きや堅実さを愛する国民性の中で熟成され、シックな色合いと上品で深みのあるデザインへと洗練された。この時代の代表建築に、1880年に完成した(③)がある。
■ウェッジウッドとは
ウェッジウッドはイギリスの陶磁器メーカーで、(①)によって1759年に設立された。古典様式をデザインに取り入れ、浮き彫りの彫刻(カメオカット)を施した『(②)』というシリーズが有名。現代も英国陶器界に君臨し、広く愛用されている。
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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▼次回、アメリカのインテリア様式はこちら!▼