こんにちは、しけたむです。
この記事では
- 「アメリカ初期の歴史や建築に興味がある。」
- 「アーリーアメリカン風のインテリアに挑戦してみたい。」
という方々に向けて、
アメリカの独立前後で流行したインテリア様式の特徴を分かりやすく画像で解説します。
アメリカ初期のインテリア様式
▲アメリカ・マサチューセッツ州にある17-18世紀ごろの家具メーカーの工房の様子
17世紀、アメリカではイギリスやフランスなど列強国からの植民地支配が本格的に始まると、19世紀前半頃まで列強国の様々な建築やインテリアの様式を取り入れて、自分たちの生活や風土に合わせながら独自の発展をみせました。
この頃のアメリカの様式には、17世紀初頭から1776年に独立を果たすまでの植民地時代の様式である「コロニアル(植民地)様式」と、独立後の様式である「フェデラル(連邦)様式」があります。
植民地時代の素朴なスタイルであるコロニアル様式は「アーリー・アメリカン様式」とも呼ばれることがあるので、頭の片隅に入れておきましょう。
コロニアル様式(植民地様式)
コロニアル様式の住宅
▲17−18世紀にアメリカで見られたコロニアル様式の住宅。急勾配の屋根、煉瓦造りの煙突、未塗装の下見板貼り(後述)の外壁などが特徴で、装飾というものはほとんど見られなかった。
コロニアル様式は「植民地様式」とも表記される、植民地時代のアメリカの建築様式です。
※コロニアル(colonial)は英単語で、「植民地の」や「植民地時代の」といった意味がある。
コロニアル様式は、それぞれの地域を支配していた列強国によってイギリス式、フランス式、スペイン式などに大別され、列強国の建築様式と支配している土地で採れる建築材料(主に木材)や風土が混ざりあり、特色を生かした建築が各地に建設されました。
▲フランスが支配していた地域はフランスの、イギリスが支配していた地域はイギリスの建築様式の特色を生かした住宅が建てられた。
初期のコロニアル様式の特徴には、以下のような特徴があります。
- 大きな煉瓦造りの煙突
- 板材を横に重ね張りした未塗装の外壁(下見板張り・ラップサイディングとも言う)
- 急勾配の屋根
- 装飾がほとんど見られない
出典:ICAA
▲初期のコロニアル様式の住宅に施工されたラップサイディングの外壁
これらの初期のコロニアル様式の建物は小さくて粗雑だったため、現在に残っている当時の建物はほとんど無く、史跡として復元され保存されています。
次第により良い住まいへの発展が見られるようになり、外壁はそれぞれの好みの色に塗装され、玄関にはポーチ(※)が付けられたり、
(※建物の入り口部分で建物の屋根とは別の庇(ひさし)を持ち、建物の外壁から突き出している部分)
大きな窓にベランダが敷設されたり、住み心地の良い住まいへの変化が見られました。
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コロニアル様式の家具
▲17世紀に建てられたコロニアル様式の住宅の室内 『PAUL REVERE HOUSE』(1676年)
植民地時代初期はイギリスやフランスなど、それぞれの列強国の様式を活かした簡素な家具が作られました。
しかし、この列強国の中でイギリスの支配が特に強まると、ウィリアム・アンド・マリー様式、クイーン・アン様式、ジョージアン様式などのイギリスのインテリア様式を活かした家具がアメリカに広まります。
その為、イギリスのウィンザー地方の椅子であるウィンザーチェア、クイーン・アン様式のハイボーイやローボーイなどの家具が流行しました。
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ウィンザーチェア
出典:smow.com
ウィンザーチェア(Windsor chair)は、17世紀後半からイギリスで製作され始めた椅子です。
当時はイギリスでの議会の場や地方の上流階級の邸宅などで使用されていましたが、やがてホテルやオフィス、中流階級の一般家庭にも置かれるようになりました。
1720年代にはアメリカへ渡り、簡素で実用的な椅子として大量生産されます。
出典:smow.com
▲1780年代のアメリカ議会の様子を描いた絵。ウィンザーチェアに腰掛ける政治家たち。
現在、「アメリカで最も有名で、長い期間使用されている椅子」は、このウィンザーチェアであると言われています。
▼曲木はこちらで詳しく説明しています▼
ハイボーイ、ローボーイ
出典:Britannica /ハイボーイ
出典:Pinterest /ローボーイ
ハイボーイとローボーイは、18世期以降にアメリカで流行した背の高い脚付き収納と背の低い脚付き収納で、ハイボーイはローボーイの上にさらにチェスト収納が乗っかったような見た目をしていたことから「ダブルチェスト」や「チェスト・オン・チェスト」とも呼ばれました。
ハイボーイは下半分が化粧テーブル、上半分が整理箪笥(たんす)になっていて、最上部には特徴的な装飾が付き、脚は湾曲したカブリオールレッグ(猫足)となっているのが主流で、一度見たら忘れられない奇抜な見た目が特徴です。
家具の製作にはアメリカ国内で伐採される様々な木材が利用されていて、ウォルナットやメイプル、オーク 、マホガニーなどが主に使用されました。
▼カブリオールレッグ って何だっけ?ならこちらから▼
ちなみにクイーン・アン様式では「トールボーイ」と呼ばれていた家具が登場しましたが、デザインに違いは見られるものの基本的にはハイボーイと同じものです。
▲18世器のイギリスで流行したクイーン・アン様式の「トールボーイ 」
フェデラル様式(連邦様式)
出典:Period Homes
フェデラル様式(連邦様式)とは、18世紀後半にアメリカにおいて連邦制(federal system)(※)が成立した時代に流行した様式です。
※連邦制(れんぽうせい)とは
アメリカの連邦政府(中央政府)と州政府がそれぞれ権限を持って分業している仕組みのこと。
連邦政府は国防、外交、州間の商取引、国家財政・税制などの州を超えて行わなければならないことを役割とし、それ以外は州に権限があり、独自の州憲法を持って統治している。
18世紀前半にイギリスで流行したジョージアン様式をベースとしたシンメトリー(左右対象)な設計に、古代ローマやギリシャなどの古典様式の装飾が施され、決して派手ではないですが風格ある堂々とした佇まいが特徴です。
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代表的な建造物として最もよく挙げられるのが、アメリカの首都ワシントンにある『ホワイトハウス』です。
出典:Old Town Trolley Tours /ホワイトハウス
出典:Oriental Review /ホワイトハウス 大統領執務室
水平で規律正しいシンプルな形状の屋根、イオニア式オーダーと重厚感のある装飾が施された玄関ポーチなどもこの様式の特徴です。
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フェデラル様式の住宅
フェデラル様式はアメリカ独立後の様式ということもあり、市民の感情としては
「植民地時代の古い建築様式を切り離して、自分たちだけの新しいスタイルを確立したい!」
という変化を求めるものでした。
フェデラル様式の建築・インテリアはシンメトリーであることや、基本的なレイアウトはコロニアル様式と同じ部分は多いですが、古代ギリシャ・ローマ建築の優雅な古典様式を取り入れているのが大きな特徴で、鉄製のフェンス、アーチ型の玄関や窓、モールディング装飾などが組み込まれ、より華やかな要素が見られるようになります。
▼モールディングって何だっけ?て方はコチラから▼
また、外壁は植民地時代の家でよく見られる下見板張り(ラップサイディング)ではなく、レンガが流行しました。
出典:Porch
出典:Brown stoner
出典:Brown stoner
▲ホワイトハウスと同じイオニア式オーダーを玄関装飾として使用。周囲もモールディングで装飾。
フェデラル様式の家具
フェデラル様式の家具の特徴は、直線的でエレガントな美しさを備えたデザインにあります。
椅子の背もたれは身体に合わせた曲面がつけられ、脚先はカブリオールレッグ にも少し似ていますが、どちらかと言えばライオンなどの猛獣の脚のようなデザインで、豪華な金色の真鍮(しんちゅう)(※)で飾られました。
出典:THE MET
▲スコットランドの家具職人ダンカン・ファイフによる『Side chair』(1791–1818)
※真鍮(しんちゅう)とは
銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金のこと。
金色に近い黄色をしていることから「黄銅(こうどう、おうどう)」とも呼ばれる。
この名称は亜鉛の含有量によって変わり、5~20%未満のものを「丹銅」、30%のものを「七三黄銅」、40%のものを「六四黄銅」と呼ばれ、「黄銅」はこの亜鉛の含有量が20%以上のものを指す。
熱によっていろいろな形に加工がしやすい金属であるため、デザイン性の高いインテリア用品や装飾品、文房具に使われており、身近なものでは五円玉に使用されている。
ヨーロッパ諸国の様式とは異なるフェデラル様式独自の特徴には、
- 比較的控えめな装飾
- 機能性の重視
- カブリオールレッグ(猫足)を使わない
等があります。
家具の装飾には彫刻が施されたほか、インレイ、マルケトリー(※)などの技法が多用されました。
※インレイとマルケトリー
■インレイ(inlay)は日本語で「象嵌(ぞうがん)」と呼ばれ
「一つの素材に異質の素材をはめ込む」技法のこと。
■マルケトリー(Marquetry)は象嵌の一種で
「様々な色調の木材や異素材をはめ込み、花や鳥などの緻密な模様を描く」技法のこと。
出典:Christie’s
▲アメリカ・ニューイングランド地方で制作されたサイドボード(1800〜1815年頃)には、マルケトリーの技法を用いて緻密な模様が描かれている。
家具にはオークやウォールナット、マホガニーなどアメリカで採れる木材のほか、布、革、ガラス、真鍮、銅などの素材が用いられました。
ダンカン・ファイフ
フェデラル様式を代表する家具職人は、スコットランド出身のダンカン・ファイフ(1768 – 1854)です。
1768年にスコットランドで生まれたダンカン・ファイフは、16歳の時に家族でニューヨークへ移り住み、見習いの家具職人として働きはじめました。
24歳になると、ニューヨークに念願の自分の家具工房を構え、上流家庭向けの家具製作を開始します。
▲ダンカン・ファイフによる『Card table』(1815−1825年)。グリフィンと呼ばれるワシの頭とライオンの体を持つ神話上の獣の頭で天板を支える構造になっている。
上質なマホガニー材などを使った優美なアンピール様式のデザインで、ファイフはアメリカの有名家具デザイナーの1人として一世を風靡(ふうび)するようになります。
▼アンピール様式についてはこちらから!▼
海外の王族や富裕層からも注文が入るほどにファイフの名声は広まり、大量に輸出される彼の家具コレクションはアメリカでも入手困難となりました。
現代では、ダンカン・ファイフの家具コレクションはニューヨークのメトロポリタン美術館でも展示が行われるなど人気が高いものとなっています。
出典:Incollect
▲ダンカン・ファイフによる折り畳みテーブル『Drop-Leaf Dining Table』(1820年)。高級材であるマホガニーを贅沢に用いて、脚部と支柱には彫刻が施されている。脚先とキャスターは真鍮製。
シェーカー様式(シェイカー様式)
出典:reddit
▲1787年から1947年までニューヨークに存在していたシェーカー・コミュニティーで使用されていた部屋の再現。シェーカー教徒の部屋は数人の女性たちでシェアされていた。(メトロポリタン美術館)
シェーカー様式とは、18世紀後半から19世紀後半にかけてイギリスからアメリカに移住したシェーカー教徒(※)によって確立された、とにかく「シンプルで質素」がモットーの建築・家具の様式です。
※シェーカー教(Shaker)とは
キリスト教の諸教派であるプロテスタントの一派で、1774年に信仰の自由を求めてイギリスからアメリカへ渡った9人のシェーカー教徒により設立された教団。
「独身主義、共同生活、男女平等、禁欲、懺悔、勤勉、質素」という厳しい戒律が高い精神性を保てると信じていて、酪農品や家具を含む木製品などを販売して生計をたてていた。
1830年代の最盛期には6,000人を超える教徒がいたが、20世紀にはほぼ消滅した。
シェーカー教徒たちは、集会で震える(shake)ような礼拝を行ったことから「シェーカー(Shaker)」という名がつきました。
出典:JSTOR Daily
▲集会で行われたシェーカーダンス。体を揺らすことにより預言を得ると信じた教徒たちは、腕を突き出した奇妙な踊りで建物全体を揺らした。
シェーカー様式の家具デザインには直線が多用され、単純かつシンプルで実用的な機能性が特徴です。
家具の表面仕上げには「素地仕上げ(素材そのものの色味や手触りを残した仕上げ)」が用いられていることも大きな特徴で、その簡素でナチュラルな風合いと手触りはシェーカー教徒たちの「質素であるべき」という厳しい戒律から来ています。
▲シンプルなシェーカー様式のサイドテーブル『Work table』
シェーカー様式の家具の中でも、梯子(はしご)のような背もたれを持つラダーバックのチェアは「シェーカーチェア」と呼ばれ、現在でも評価が高く多くの愛好家がいます。
出典:Dezeen
▲材料を切り詰めてシンプルな造形としたシェーカー様式の椅子
禁欲的で厳格な戒律を持ち、自給自足による共同生活と装飾性を排した簡素な暮らしをしていたシェーカー教徒の生活スタイルは、シェーカー様式の家具デザインにそのまま反映されていました。
スパニッシュ・ミッション様式
出典:THE LOCAL PROJECT
スパニッシュ・ミッション様式は、スペイン南部アンダルシア地方で発祥した建築といわれています。
アメリカへはスペイン式のコロニアル様式としてもたらされ、最初の建物は18世紀前後にカリフォルニア州で建設されました。
アメリカ先住民族の建築様式を取り入れ独自の発展を遂げ、鉄道の駅舎などに採用されことが契機となって一挙に全米に広がり、現代でもアメリカ南西部を中心に高い人気を集めています。
スパニッシュ・ミッション様式の外観は、クリーム色の外壁に赤いスペイン瓦が印象的なスタイルで、玄関扉の側には採光用の窓が用いられることが多いです。
▲外壁はクリーム色の塗り壁と、屋根は赤いスペイン瓦で装飾された。玄関扉の横には最高用の窓が用いられるのが特徴。
屋根の勾配は比較的ゆるく、庇(ひさし)が張り出していることもあります。
出典:Pinterest
▲勾配の緩いスペイン瓦の屋根は、強い日差しによって鮮やかに赤く輝く。
室内にも漆喰(しっくい)などが塗られ、開放的な大きな窓から差し込む日差しが漆喰に反射して室内を明るく照らします。
またアーチ型にデザインされた開口部は、スパニッシュ・ミッション様式の特徴の中でも人気の高い意匠のひとつです。
▲スパニッシュ・ミッション様式の住宅には開放的な大きな窓、室内にはアーチ型の開口部が設けられることが多く、壁材は漆喰(しっくい)などが塗られた。
ナンタルカのまとめ
■アメリカの様式
アメリカのでは17世紀から本格的な植民地支配がはじまり、ヨーロッパ諸国から建築やインテリアの様式を取り入れた。17世紀初頭から1776年の独立までの植民地時代の(①)様式と、独立後の(②)様式に分類される。また、17世紀初頭の素朴なスタイルを(③)と呼び、(①)と同義とされることもある。
■植民地時代の家具
植民地時代初期は、イギリス、オランダ、ドイツなど、それぞれの列強国の様式を生かした簡素な家具が作られた。やがてイギリスの支配が強まると、ウィリアム・アンド・マリー様式、クイーン・アン様式、ジョージアン様式などのイギリスのインテリア様式が広まった。そのため、(①)と呼ばれるチェアやクイーン・アン様式の背の高い衣装箪笥(②)などが流行した。
■アメリカ独立後の家具
植民地支配を終えた18世紀末から19世紀にかけて、ニューヨークの家具職人(①)のアンピール風の家具が一世を風靡した。同じ頃、(②)教徒によるシンプルな造形が特徴的な家具が生み出され、(②)様式と呼ばれた。この様式の椅子には、背もたれがはしご状になった(③)のものが多く、現在でも評価が高い。また、カリフォルニア州を中心にスペインからもたらされた(④)様式が人気となり、アメリカ中に広まった。
お疲れ様でした。
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