こんにちは、しけたむです。
この記事では
- 「イタリアの家具デザイナーについてもう少し語れるようになりたい。」
- 「カスティリオーニっていう名前はどこかで聞いたことあるよ。」
という皆様に向けて、
イタリアンモダンデザイナーのマリオ・ベリーニとアキーレ・カスティリオーニについて分かりやすく画像で解説します。
マリオ・ベリーニ
マリオ・ベリーニ(1935年 -)はイタリアの建築家兼デザイナーで、8つのコンパッソドーロ賞と、イタリア共和国大統領から金メダルを授与されるなど権威ある建築賞の受賞者です。
▼コンパッソドーロ賞は前回の記事でご紹介!▼
マリオ・ベリーニは1935年にミラノに生まれ、ミラノ工科大学建築学科を卒業するとデザイナーとして働き始めます。
1963年、28歳のマリオ・ベリーニはタイプライターの製造・販売メーカー『Olivette (オリベッティ)』にデザイナーとして勤務し、いくつものタイプライターデザインに関わりました。
▲マリオ・ベリーニがオリベッティでデザインしたタイプライター『Lettera Praxis DLX』
オリベッディでデザインを担当していたマリオ・ベリーニのデザインは好評で、日本企業『ヤマハ』やイタリアの家電メーカー『ブリオンヴェガ』など、多くの電化製品メーカーからもデザインオファーを受け、名作と呼ばれるプロダクトを立て続けに発表します。
出典:Twitter
▲ヤマハからの依頼でマリオ・ベリーニがデザインしたカセットデッキ『 YAMAHA TC-800GL (1975年)』当時のヤマハはこの特徴的なデッキの形を「ベリーニ・アングル」と呼んでいた
出典:ヤフオク!
▲革新的なデザインで注目を浴びた象印マホービンの電気ポット『電気エアーポット「ミニ・デカ」CAN-2201』(1984年)
また、1980年代前後にはフランスの自動車メーカー『ルノー』で自動車デザインコンサルタントとして働いたり、イタリアの自動車メーカー『フィアット』や『ランチア』のデザインも行い自動車業界でも活躍します。
出典:Byri
▲イタリアの自動車メーカー『ランチア』のトレビという車はマリオ・ベリーニが内装をデザインした(1980年)
家具・照明業界では、『B&B Italia(ビーアンドビーイタリア)』と『Cassina (カッシーナ)』はもちろん、『Kartell (カルテル)』、『PoltronaFrau (ポルトローナフラウ)』、『Vitra (ヴィトラ)』、『Flos(フロス)』などのデザインを手掛け、カッシーナ社の椅子「CAB」ほか、計25点の作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示されています。
また、マリオ・ベリーニはジオ・ポンティが創刊した建築・デザイン誌「domus(ドムス)」の編集長を1986年から1991年まで務めました。
▼ジオ・ポンティってだれ?ならこちらから▼
CAB CHAIR(キャブチェア)
出典:Cassina ixc
CAB CHAIR(キャブチェア)は1977年にマリオ・ベリーニがデザインし、カッシーナから発表されたチェアで、文句なしにベリーニの最高傑作でイタリアンモダンデザインを代表する椅子としてニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。
キャブチェアはスチールのフレームに、高級感溢れる厚革のジャケットを服を着せるように被せるという画期的な発想で構成されていて、フレームと厚革が作り出すテンションによって、背もたれのフィット感と抜群の座り心地を実現しています。
出典:Casa Brutus
▲どちらか1つでは椅子として成立しないが、構造体に革をかぶせてシート裏側のファスナーで留めると完璧な椅子になる『キャブアームレスチェア』
1977年に発表された『CAB』シリーズには、ほかにも「アームチェア」や「カウンターチェア(※)」などのバリエーションがデザインされていて、2015年には「ラウンジアームチェア」と「ベッド」が追加されました。
(※カウンターチェア:座面の高いチェアのことでバーチェアとも言われる)
出典:Context
▲背もたれからアームにかけての流れるようなカーブが美しい『Cab Armchair (キャブアームチェア)』(1979年)
出典:Cassina ixc
▲キャブチェアと同じように金属製のフレームに革を着させた『CAB LOUNGE (ラウンジアームチェア)』は4つのジッパーで留められている。デザインするにあたり、ベリーニは途中で方向性を見失うほど、相当の試行錯誤を重ねたそう。
La Rotonda Table(ラ ロトンダテーブル)
出典:Cassina.ixc
ラ ロトンダテーブルは、1976年にマリオ・ベリーニによってデザインされたテーブルでカッシーナ社より発売されました。
3本の木材が絡み合ったように見える脚部は、軸となる1本の木材に4つの穴が開けられていて、この穴(ホゾ穴)に4方向から別の木材を差し込み形成されています。
出典:Cassina.ixc
▲天板はφ1,650mmのワンサイズで、ガラス、大理石、木の3種類の材から選択できる。
シンプルですっきりとしたデザインですが、太く頑強な木材で組まれた構造により、ダイナミックな迫力とどっしりとした安定感を生み出しています。
Camaleonda(カマレオンダ)
出典:B&B italia
1970年に『B&B Italia』から発表されたCamaleonda(カマレオンダ)は、マリオ・ベリーニがデザインしたソファで最も代表的なものです。
96cm x 96cmというモジュールのシートを置き換えることにより、様々な座り方に対応が出来るという特徴を持っています。
出典:B&B italia
▲ソファとソファの間に置いてあるのは『Gli Scacchi(リ・スカッキ)』(チェス盤の駒という意味)のサイドテーブル。軽くて簡単に動かせる為、カマレオンダの形状に合わせて自由に配置できる。
カマレオンダは、環境に適応する特性をもった動物「カメレオン(イタリア語でカマレオンテ)」と、海と砂漠の曲線を⽰す波「onda(オンダ)」という2つの単語を⾜し合わせた造語で、どちらの言葉もカマレオンダの形状と機能を表現しています。
Bolt Table(ボルトテーブル)
出典:B&B italia
ボルトテーブルは、2017年に『B&B italia』のためにマリオ・ベリーニがデザインしたテーブルです。
木製の脚を持つテーブルはいくつもデザインしてきたベリーニが、今まで考えも及ばなかった金属脚の構造を提案しました。
シンプルなデザインでありながら同時に強い素材感が印象深いテーブル脚部となっていて、3本に交差するL字型の断面形状をした鋼材が円形のガラス天板を支えています。
出典:CONTEXT
▲テーブルガラスの大きさは1種類(φ1,650mm)で、「ミュージアムガラス」と呼ばれる反射や映り込みの少ないガラスが使用されている。脚はブロンズ酸化仕上げのスチール、サンドブラスト仕上げ、そして磨き仕上げのステンレススチールの3種類。
アキーレ・カスティリオーニ
出典:Flos
アキーレ(アッキーレ)・カスティリオーニ(1918年 – 2002年)はイタリアを代表する家具、照明デザイナーで、誰もが目にしたことがあるような伝説的な名作をいくつもデザインしたイタリアデザイン界の巨匠です。
カスティリオーニは1918年にイタリアのミラノで彫刻家の父の三男として生まれ、高校で芸術を学び、1937年に彼はミラノ工科大学の建築学部に入学しました。
第二次世界大戦が勃発すると大砲の将校となってギリシャ戦線に駐屯し、後にシチリアの駐屯を経験すると、1943年の連合国侵攻の前にミラノに戻ってきます。
戦争が終わるとカスティリオーニは彼のふたりの兄であるリビオとピエール・ジャコモが1938年から始めた建築設計の仕事を手伝い、戦争による爆撃によって破壊された街を再建するプロジェクトなどを行いました。
出典:Context
▲次兄のピエール・ジャコモ・カスティリオーニ(右)と末弟のアキーレ・カスティリオーニ(左)
1952年に長兄であるリビオ・カスティリオーニが事務所を去ると、1962年に設立された照明ブランド『FLOS(フロス)』にピエール・ジャコモとアキーレは兄弟揃ってデザイナーとして迎え入れられ、革新的なプロダクトを立て続けに発表するとイタリアや世界のデザイン界に多大な影響を与えました。
出典:FLOS
▲ カスティリオーニ兄弟(写真左)の照明『Cocoon lamp』に興味津々で説明を受けるマルセル・ブロイヤー(写真右)(ミラノ、1962年)
▼マルセル・ブロイヤーって誰?となったらこちらから▼
1968年、次兄のピエール・ジャコモが亡くなると、翌年からカスティリオーニはトリノ工科大学で建築とデザインの科目を教えはじめ、1980年からはミラノ工科大学建築学科で准教授となり、若手の育成に力を入れました。
デザイナーの個性を主張するのではなく、使う人、生活者の視点で物づくりを続けたカスティリオーニの仕事は「イタリアデザインのマエストロ」、「革新的工業デザインのパイオニア」など、賞賛の言葉とともに世界的に高い評価を得ています。
Mezzadro(メッザドロ)
出典:MUSE
Mezzadro(メッザドロ)とは、1957年にアキーレ・カスティリオーニとピエール・ジャコモ・カスティリオーニ兄弟によって「レディメイド(※)」のコンセプトを取り入れてデザインされたトラクター用のシートが特徴的なスツールで、イタリアの家具ブランド『Zanotta(ザノッタ)』から販売されました。
※レディメイドとは
芸術家「マルセル・デュシャン」(1887年 – 1968年)によって考案された作品概念。
大量生産された既製品からその機能を剥奪し、芸術作品として既製品を展示したものをいいます。
本来は「既製品」を意味する語ですが、デュシャンはそれを自身の作品のひとつのカテゴリー名称として位置づけました。
▲《自転車の車輪》は1913年にマルセル・デュシャンによって制作されたレディ・メイド作品。 自転車の前輪を取り外して、木製の台所用の椅子の上に逆さまにしてネジ留めし、立てかけている。
メッザドロにはトラクターに用いられたシート、レーシングバイクのピン、スチール製のクロスボウ、帆船の横木という既成品の要素が組み合わされて構成されています。
出典:GENERATE
▲メッザドロのシートは赤、白、黒、黄というカラフルなバリエーションがあり、様々なインテリアシーンに合わせることができる。座る方向は帆船の横木がある方向が前になる。
メッザドロとは「小作人(地主から農地を借りて農作物をつくる農民)」という意味であり、皮肉をこめて貧しい労働者の象徴が取り入れられています。
ARCO(アルコ)
出典:FLOS
ARCO(アルコ)は1962年、カスティリオーニ兄弟の合作によりデザインされた、『FLOS(フロス)』を代表する近代照明デザインの傑作です。
ARCOとは「アーチ」を意味する言葉で、その名前の通り重厚な大理石ベースから美しいステンレスのポールが華麗なアーチを描きます。シェードは二重になっていて、回転させることによって光の方向を変えることができます。
出典:DOMOHOLIC
▲リビングに置かれることが多いアルコだが、カスティリオーニ兄弟は当初ダイニングを照らす照明としてアルコをデザインした。
約60㎏の大理石の塊と2mのアームの組み合わせという斬新な発想で、細部にいたるまで計算しつくされたアルコは誰しもがどこかで見たことがある照明のひとつです。
Frisbi(フリスビー)
出典:FLOS
Frisbi(フリスビー)とは、1978年にアキーレ・カスティリオーニがデザインしたその名の通りフリスビー形状が特徴的なペンダント照明です。
小さなスポットライトから発された光を60cmの乳白色の円盤に反射・拡散させ、大きな発光面へと変えた光でフロアを照らします。
出典:Hive
▲スポットライトの内部は白く塗られていて、反射した光が真下にも落ちやすくなっている
個性的なデザインの裏に計算され尽くした機能性が存在しているフリスビーは、40年以上の歳月を経た現在でも色褪せることの無い名作照明として広く知られています。
ナンタルカのまとめ
■マリオ・ベリーニ
マリオ・ベリーニはイタリアの建築家兼デザイナーで、8つのコンパッソドーロ賞とイタリア共和国大統領から金メダルを授与されるなど権威ある建築賞の受賞者である。代表作には、金属のフレームに革を被せた(①)や、96cm x 96cmというモジュールのシートを置き換えることにより様々な座り方に対応が出来るソファ(②)がある。1976年にカッシーナ社より発売されたテーブル(③)は、3本の木材が絡み合ったように見える脚部が特徴となっている。
■アキーレ・カスティリオーニ
アキーレ・カスティリオーニはイタリアを代表する家具、照明デザイナーで、誰もが目にしたことがあるような伝説的な名作をいくつもデザインしたイタリアデザイン界の巨匠である。代表作には「レディメイド」のコンセプトを取り入れてデザインされたトラクター用のシートが特徴的なスツール(①)、「アーチ」を意味する言葉で、その名前の通り重厚な大理石ベースから美しいステンレスのポールが華麗なアーチを描いた(②)がある。
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
分かりにくい点やお気づきのことがあれば、メールでご連絡頂けましたら幸いです。
では、次回もお楽しみに。
▼次回、世界的デザイナー柳宗理はこちらで解説!▼