こんにちは、しけたむです!
この記事では
- 「有名なデザイナーズチェアについてさらに詳しく知りたい。」
- 「デザイナーとデザイナーズチェアの組み合わせも正しく理解したい。」
という皆様に向けて、これだけ覚えれば大丈夫!
絶対に知っておくべき有名なデザイナーズチェアについて画像で解説します。
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デザイナーズチェアの歴史的名作㉙〜㊺
㉙『チューリップチェア』(1958年)
出典:FLYMe
チューリップチェアとは、1956年にアメリカで活躍したフィンランド人の建築家、デザイナーのエーロ・サーリネンによりデザインされたアルミとFRPを使用した椅子の名称で、椅子の形状がチューリップの花に似ていることから名付けられました。
アメリカのオフィス家具を扱う企業『Knoll(ノル)』へ向けてデザインしたもので、「ダイニングテーブルに合うような椅子」というKnoll社からの依頼内容がそのままかたちとなったようなデザインです。
出典:Traveller
▲エーロ・サーリネンが自らデザインした『TWAフライトセンター』のホテルに置かれたチューリップチェア
材質には脚部にはアルミのほか、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)(※)が座面のフレームに使用され、クッションには革やファブリックが使われています。
※FRP(Fiber-Reinforced Plastics)とは
「繊維強化プラスチック」のこと。
Fiber(繊維)でReinforced(強化した)Plastics(プラスチック)の略語。
割れやすいプラスチックにガラス繊維を混入させることで、軽量で強度の高いプラスチックになる。
発売当時、チューリップチェアは曲線の美しさやFRPという新素材の使い方が時代の最先端を捉えた産業的デザインの典型と位置付けられていましたが、21世期となってもそのデザインが古くなる事はなく、まさに永遠のデザインと言えるでしょう。
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㉚『Swan Chair(スワンチェア)』(1958年)
出典:CULT
スワンチェアとは、1958年にデンマーク・コペンハーゲンにある『SASロイヤルホテル(現ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル)』のために、デンマークの建築家でありデザイナーのアルネ・ヤコブセンによってデザインされたウレタンとアルミを用いたチェアです。
「スワンチェア」という名前で有名ですが、正式名称は『スワン(白鳥)』であり、発売時から現在まで、デンマークの家具メーカー『Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)』によって製造されています。
出典:Ultra Swank
▲SASロイヤルホテルに採用されたヤコブセンのチェアの数々。写真右奥は「ドロップチェア」、左手前は「エッグチェア」(写真はSASロイヤルホテル606号室)
スワンチェアのシートには成形合板では無く「硬質発泡ポリウレタン」が使用されていて、すべてが曲線で構成されたフォルムはまるで白鳥のようです。
▼ポリウレタンって何?という方はこちらから▼
このような曲面板からなる構造のことを「シェル構造」といい、「シェル」は直訳すると「貝殻(かいがら)」という意味であることから「貝殻構造」とも呼ばれます。
出典:SUITE NY
▲ヤコブセンはコペンハーゲンの自宅ガレージで、いくつものスワン試作品を作り改良を重ねた。
また、スワンチェアの張り地はファブリックとレザーから選ぶことができて、レッグは回転式のサテン研磨アルミ製のみでバリエーションはありません。
ヤコブセンは、SASロイヤルホテルにスワンチェアを使用しただけでなく、人生最後のプロジェクトとなった『デンマーク国立銀行』にも使用しました。
▲コペンハーゲンの中心地に位置する『デンマーク国立銀行』は、ヤコブセンが死の間際までその設計に尽力し、遺作となった作品。ファサードはノルウェー産の黒大理石とダークカラーのミラーガラスで覆われており、堅牢な印象を与えている。(1978年完成)
出典:Degitalassets.fritzhansen.com
▲『デンマーク国立銀行』に置かれたレザーのスワンチェアとスワンソファ
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㉛『Egg Chair(エッグチェア)』(1958年)
出典:Pen Online
エッグチェアとは、正式には『エッグ(卵)』という名称で、1958年にコペンハーゲンにある『SASロイヤルホテル』のためにデンマークの建築家、デザイナーのアルネ・ヤコブセンによってスワンチェアと一緒にデザインされたラウンジチェアです。
スワンチェアと同じくウレタンとアルミが用いられ、現在までデンマークの家具メーカー『Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)』によって製造され続けています。
ヤコブセンは当時まだ新しい素材であった発泡硬質ポリウレタンに着目し、曲線で構成されたシェル構造のデザインに徹底的にこだわりました。
出典:Fritz hansen
▲エッグチェアには足を乗せるフットスツールもデザインされていて、足を乗せてリラックスできる。
ヤコブセンは彫刻家のように、コペンハーゲンの自宅ガレージでワイヤーと石膏を使用して試作を繰り返し、エッグチェアの完璧な曲線フォルムを追及しました。
今日、エッグチェアはヤコブセンの偉業を象徴するアイテムの1つとして、またスカンジナビアンデザインの代表的な作品として世界中で認識されています。
出典:Happy Interior Blog
▲コペンハーゲンにあるフリッツ・ハンセンの工場では、一つ一つ手作業で製作されている。
ちなみにエッグチェアのデザインは、エーロ・サーリネンがデザインした『ウームチェア (Womb chair) 』に影響を受けたものという話は有名ですが、真偽は不明です。
出典:Knoll
▲アルネ・ヤコブセンがエッグチェアをデザインする際、インスピレーションを受けたと言われるエーロ・サーリネンがデザインした『ウームチェア』
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㉜『Drop Chair(ドロップチェア)』(1958年)
出典:Fritz hansen
ドロップチェアとは、1958年にコペンハーゲンの『SASロイヤルホテル』のために、デンマークの建築家、家具デザイナーのアルネ・ヤコブセンによって『ドロップ(しずく)』という名称でデザインされた椅子です。
スワンチェアやエッグチェアと共にデザインされましたが、ドロップチェアの製造数は同ホテルのためだけの限られたものだったため、ヴィンテージ市場では「幻の銘品」としてめちゃめちゃ高値で取引されてきたことでも有名です。
出典:ワイズカーサ
▲抱擁(ほうよう)の感覚にインスピレーションを得てデザインされたというドロップチェアのフォルムは、動きやすさと快適さを持ち合わせている。
ヤコブセンの隠れたお気に入りだったといわれるドロップチェアは2014年に初めてデンマークの家具メーカー『Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)』より発売され、現在でも爆発的な人気を誇っています。
㉝『Spanish Chair(スパニッシュチェア)』(1959年)
スパニッシュチェアとは、1959年にデンマークの家具デザイナー「ボーエ・モーエンセン」が、スペインのアンダルシア地方を旅行中に見かけたその地方伝統の貴族階級の椅子からインスピレーションを受けてデザインした木製の椅子です。
木目の美しいオーク材に背もたれとシートの2枚のサドルレザーを留める真鍮(しんちゅう)(※)のバックル、そして厚みのあるコニャック色のレザーは、年月を重ねて使い込むことでさらに美しくなります。
※真鍮(しんちゅう)とは
銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金のこと。
金色に近い黄色をしていることから「黄銅(こうどう、おうどう)」とも呼ばれる。
この名称は亜鉛の含有量によって変わり、5~20%未満のものを「丹銅」、30%のものを「七三黄銅」、40%のものを「六四黄銅」と呼ばれ、「黄銅」はこの亜鉛の含有量が20%以上のものを指す。
熱によっていろいろな形に加工がしやすい金属であるため、デザイン性の高いインテリア用品や装飾品、文房具に使われており、身近なものでは五円玉に使用されている。
▼真鍮はこちらで詳しく紹介しています!▼
出典:Fredericia
▲コニャック色の美しいレザー。ちなみに「コニャック」とはフランスのコニャック地方で産出する高級ブランデーの一種のこと。
シンプルな構造のラウンジチェアは、平均的な椅子のシートハイが45cm程度であるのに比べ、33cmと低めの設定となっていて、背中に体重を預けて最高のリラックス感覚が味わえるようになっています。
現在に至るまで、デンマークの家具メーカー『Fredericia(フレデリシア)』にて製造が続けられています。
▼ボーエ・モーエンセンはこちらの記事でご紹介!▼
㉞『Panton Chair(パントンチェア)』(1960年)
出典:SEMPRE
Panton Chair(パントンチェア)とは、アルネ・ヤコブセンの元で建築を学んだ20世紀を代表するデンマーク人デザイナー「ヴェルナー・パントン」によって1960年にデザインされたポリプロピレンを用いたプラスチックチェアです。
特筆すべき点は、パントンチェアが世界で初めてプラスチックだけで作られた椅子であるということです。
強化プラスチックであるポリプロピレンを利用することにより、今までに無いデザインや座り心地を実現することが可能になり、まさに「デザイン業界の革命」として発売時は世界中に衝撃を与えたそうです。
出典:SEMPRE
▲パントンチェアの製造は形状や厚みはもちろん、製造方法や素材選びなどの選定など困難が多く、1960年にデザインされてから150脚の試作品が完成するまで7年の歳月がかかった。
そしてパントンチェアの脚、浮いたような変わったかたちをしていますよね。
これは「カンチレバー(キャンティレバー)構造」と呼ばれるもので、例えるとプールの飛び込み台のように片側が固定され、反対側は動くことのできる片持ちの構造のことです。
この構造により、腰掛けた時にわずかに弾むような「しなり」が生まれ、心地よい座り心地を実現しています。
出典:SEMPRE
▲背もたれから脚部まで流れるように一体化されたデザインはまるで彫刻作品のよう。
2006年にはパントンチェアの大きさを25%縮小した子供用の椅子『パントンジュニア』が登場し、パントンチェアと共にスイスの家具メーカー『Vitra(ヴィトラ)』より販売されています。
出典:SEMPRE
▲パントンジュニアはパントンチェアと同じようにスタッキングが可能なので、数脚あっても邪魔にならないのも大きな魅力の一つ。
㉟『ラタンチェア(ラウンジチェア)』(1960年)
出典:YMK長岡
ラタンチェア(ラウンジチェア)とは、1960年に日本を代表するデザイナーの剣持勇(けんもちいさむ)が「ホテルニュージャパン」のラウンジ用にデザインし、新潟県にある藤家具メーカー『YMK長岡(ワイ・エム・ケーながおか)』によって製造されたチェアです。
当時、日本は1964年の東京オリンピックを控え、世界中のゲストを迎え入れるべく高速道路や宿泊施設などの建設ラッシュが続いていました。
「ホテルニュージャパン(現在は廃業)」も外国客を迎えるホテルとして東京都千代田区に建設され、内装を剣持勇が担当することになります。
出典:水谷幹治
▲ホテルニュージャパンの経営者である横井英樹は、日本人ラッパーZEEBRAの祖父にあたる。
いくつかデザインされた家具の内、ラウンジ用にデザインされた籐製のチェアがそのまま「ラウンジチェア」と呼ばれるようになりました。
出典:TABROOM
▲現在も少し大ぶりサイズの『C-3160』(右)と小ぶりな『C-3150』(左)という2つの品番で販売されている。体の大きい欧米人でもゆったり座れるようにワイドが広くなっているという親切設計。
ラタンチェアは、「籐(とう)」(※)を使用して繊細に編み込むことにより、日本の技術力の高さを世界に向けてアピールし、1964年に日本の家具デザインとしては初めてニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクション(永久所蔵品)に選定されました。
※籐(とう)とは
籐は、広義にはヤシ科トウ亜科の植物のうち、つる性の茎を伸ばす植物の総称(約600種類)で、英名では「ラタン」という。
籐の繊維は植物中で最長かつ最強ともいわれ、家具や籠などの材料として人気が高い。
出典:Landmark
▲籐の茎は樹木に比べて成長が早く5~10年で家具などに使用できる大きさに成長するため、地球にやさしいエコ素材として注目されている。
▼剣持勇はこちらの記事で紹介しています!▼
㊱『シェルチェア(CH07)』(1963年)
出典:Andorra
シェルチェアとは、1963年にデンマークの家具デザイナー「ハンス・J・ウェグナー」によってデザインされた3本脚の彫刻的なフォルムをもつ成形合板の椅子です。
成型積層合板(プライウッド)で作られている座と脚の曲線が流れるようなフォルムを生み出していて、座面と背のクッションはファブリック、または革張りから選べるようになっています。
しかし発売当初はエッジの効いた攻めすぎたデザインに対する消費者の不快感から、数台しか生産されずに廃盤となってしまったそうです。
ところが、1998年にデンマークの家具メーカー『カール・ハンセン&サン』により復刻されるとすぐに大きな反響を呼び、現在ではハンス・J・ウェグナーを代表するチェアのひとつとして評価されています。
▼ハンス・J・ウェグナーはこちらでご紹介▼
㊲『スポークチェア』(1963年)
出典:天童木工
スポークチェアとは、日本を代表するデザイナー豊口克平(とよぐちかつへい)によってデザインされ、1963年に山形県天童市の家具メーカー『天童木工(てんどうもっこう)』より発表されたチェアで、横幅が81cmもある楕円形をした大きな座面と、細い丸棒(スポーク)を並べた背が特徴です。
楕円形の座面は足を投げ出してもよし、あぐらをかいてもよし、の日本の床に座る生活に対応した設計となっています。
出典:monomono
▲13本のスポークが背中を優しく包み、くつろぐのにちょうど良い角度になっている
座面の裏側にある楕円形のフレームは、天童木工が得意とする成形合板の技術「エンドレス成形」によって作られていて、熟練の技で継ぎ目の無い楕円形の成形を可能にする、天童木工ならではの成形技術です。
またお気付きの方も多いかとは思いますが、このスポークチェアはイギリスの伝統的なチェアである「ウィンザーチェア」を手本にしています。
出典:smow.com
▲ウィンザーチェアは17世紀後半からロンドンの職人たちによって作られ、一般市民に広く使われた「庶民の椅子」。実用性と経済性そして造形性にも優れ、現代にも通じる椅子デザインの原点の一つと言われている。
▼アメリカで有名なウィンザーチェアはこちらでご紹介▼
スポークチェアのもう一つの特徴は座面の「低さ」で、一般的なソファなどは座面高さ40cm前後が一般的ですが、スポークチェアは高さ34cmと低く、家の中で靴を脱いで裸足で暮らす日本人がゆったりと座るのに最適な高さに設計されています。
和室で使用しても畳に座った人と視線の差が少なく、また太めの脚は先端が丸まっていて畳やカーペットが傷まないような配慮がされてることにも注目です。
▼豊口克平はこちらの記事にて紹介しています▼
㊳『BALL CHAIR(ボールチェア)』(1966年)
出典:Look Modern
BALL CHAIR(ボールチェア)とは、1966年にフィンランドのインテリアデザイナーエーロ・アールニオがデザインし、ドイツでの家具展示会「ケルン国際家具見本市」に出品したFRP樹脂(繊維強化プラスチック)製の椅子です。
もともとは、エーロ・アールニオの自宅用のチェアとしてデザインをスタートさせたもので、椅子に座った時の頭の動きをアールニオの妻が壁に記して、椅子の寸法を決めていったところこのようなボール状のユニークなデザインとなったそうです。
▲ボールチェアはエーロ・アールニオのデビュー作。彼の自宅では、写真のように赤い電話機を取り付けて実際に使用していた。
ボールチェアはその形状から、座ると周囲の音を約70%遮断することができ、集中して読書やPCなどの作業を行うことができます。
▲ボールチェアは大人がすっぽりと入ってしまう大きさ。脚は回転式となっているため、自由な方向へ向けることができる。
ボールチェアの一度見たら忘れない宇宙的で独創的なデザインはモナコのグレース王妃や多くのセレブレティを魅了し、さまざまなプロモーションビデオや映画、CMや広告などに採用されているのはもちろん、MoMAをはじめ、数々の美術館でパーマネントコレクションにも選定されています。
㊴『SELENE(セレーネチェア)』(1969年)
出典:MoMA
▲前後の脚の幅が違う(前脚が狭く後脚が広い)ため、スタッキングが可能
セレーネチェアとは、イタリアの家具デザイナー・建築家のヴィコ・マジストレッティが1969年にデザインしたFRP製のチェアで、イタリアの照明ブランド『Artemide (アルテミデ)』より発表されました。
当時では新素材であったFRP(繊維強化プラスチック)を使用して、座面や背もたれ、脚が一体化した構造で作られていることに大きな特徴があります。
しかし圧縮成形のプラスチックを使用すると、ヒビが入ってしまったり、割れてしまうなどの強度に対する課題がありましたが、背もたれと後脚の交差する部分を「S字にひねる」事によって、この強度における技術的な課題をクリアすることができました。
▲脚をくるんとS字型に湾曲させることによりプラスチック素材でも強度を高めている。
プラスチック製の椅子には様々な名作チェアがありますが、セレーネチェアはイタリアンモダンデザインを代表する「プラスチックチェアの傑作」として特に有名です。
この椅子の高い評価は、MoMAの永久コレクションに選定されていることからも分かります。
▼ヴィコ・マジストレッティはこちらから▼
㊵『NychairX(ニーチェアエックス)』(1970年)
出典:MAGMOE
Nychair (ニーチェアエックス)とは、日本の家具デザイナー新居猛(にいたけし)によってデザインされ、1970年に「有限会社ニーファニチア」より発売された折り畳みチェアで、2013年以降からは名古屋市にある家具メーカー「株式会社 藤栄(ふじえい)」にて製造・販売されています。
X型に組まれたスチールフレーム(現在はステンレスに変更)と木製の肘掛け、キャンバス地のシートを4本のネジで固定するだけで完成し、安定したゆったりとした座り心地です。
出典:NychairX
▲ニーチェアオットマンを使えばこんな具合に極上のリラックス感を味わえる
折り畳んだ時に自立するのもニーチェアエックスの特徴のひとつです。
「ニーチェアエックス」の名付け親であり監修を行なった北欧デザイン研究の第一人者で武蔵野美術大学名誉教授の島崎信(しまざきまこと)は良い椅子の条件として、「座りやすい」、「丈夫」、「軽い」、「価格が妥当」、「フォルムが美しいこと」という5つを挙げ、ニーチェアエックスがこれら全てを兼ね備えた椅子であると評価しました。
出典:PRTIMES
▲折りたたんだニーチェアエックスは後部に付いている紐で開かないようにまとめておくことができる
発売から4年が経った1974年(昭和49年)、ニーチェアエックスはニューヨーク近代美術館(MoMA)にて永久収蔵が認められるという偉業を果たし、発売から50年以上が経った現在では100万脚以上の出荷を誇る大ベストセラー商品となっています。
▼新居猛はこちらの記事で紹介しています▼
㊶『CAB CHAIR(キャブチェア)』(1977年)
出典:Cassina ixc
CAB CHAIR(キャブチェア)とは、1977年にイタリアの建築家・デザイナーのマリオ・ベリーニがデザインし、イタリアの家具メーカー『Cassina(カッシーナ)』から発表されたレザーチェアで、文句なしにベリーニの最高傑作でイタリアンモダンデザインを代表する椅子としてニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。
キャブチェアはスチールのフレームに、高級感溢れる厚革のジャケットを服を着せるように被せるという画期的な発想で構成されていて、スチールフレームと厚革が作り出すテンションによって、背もたれのフィット感と抜群の座り心地を実現しています。
出典:Casa Brutus
▲どちらか1つでは椅子として成立しないが、スチールの構造体に革をかぶせてシート裏側のファスナーで留めると完璧な椅子になる『キャブアームレスチェア』
1977年に発表された『CAB』シリーズには、ほかにも「アームチェア」や「カウンターチェア(※)」などのバリエーションがデザインされていて、2015年には「ラウンジアームチェア」と「ベッド」が追加されました。
(※カウンターチェア:座面の高いチェアのことでバーチェアとも言われる)
出典:Context
▲背もたれからアームにかけての流れるようなカーブが美しい『Cab Armchair (キャブアームチェア)』(1979年)
出典:Cassina ixc
▲キャブチェアと同じように金属製のフレームに革を着させた『CAB LOUNGE (ラウンジアームチェア)』は4つのジッパーで留められている。デザインするにあたり、ベリーニは途中で方向性を見失うほど、相当の試行錯誤を重ねたそう。
▼マリオ・ベリーニはこちらで紹介しています▼
㊷『How High the Moon(ハウ・ハイ・ザ・ムーン)』(1986年)
出典:Pen
How High the Moon(ハウ・ハイ・ザ・ムーン)とは、1986年に日本が誇る世界的デザイナー倉俣史朗(くらまたしろう)が発表したスチールの薄板に切れ目を入れて引き伸ばした「エキスパンドメタル(金網材)」を使用した革新的な作品で、工業製品としての力強さと透明感のある繊細さを併せ持つ稀有な作品として、倉俣史朗の代表作となっています。
エキスパンドメタルという素材はあまり聞き慣れないかもしれませんが、建築業界では建築現場の足場や、よく見かけるものだと道路のフェンスなどに一般的に用いられる素材で、当時は家具の仕上げ材として使うなんてことは考えられていませんでした。(今でも一般的には使用しませんが、、、)
出典:神鋼建材工業
▲道路脇にあるエキスパンドメタルで作られたフェンス
発表当時は、長崎県に本社をもつ内装施工会社「イシマル」と広島県の「寺田鉄工所」が製作し、1997年までは日本のインテリアショップ「IDEE(イデー)」でも販売されていました。
海外ではスイスの家具メーカー「Vitra(ヴィトラ)」も生産・販売を手がけていましたが2009年に生産が終了し、現在はクラマタデザイン事務所監修のもと「ギャラリー田村ジョー」により、復刻・再販されていて、インテリアショップ「SEMPRE(センプレ)」にて受注生産を受け付けています。
出典:ALL ABOUT
▲ハウ・ハイ・ザ・ムーンはソファもある。倉俣の作品は家具というよりアートと呼べるような作品が多い。
▼倉又史朗はこちらの記事にて紹介しています▼
㊸『サークルチェア(PP130)』(1986年)
出典:Lauritz.com
デンマークの家具デザイナーハンス・J・ウェグナーがデザインしたサークルチェア(PP130)は、1986年よりデンマークの家具メーカー『PP Mobler(PPモブラー)』で生産が開始されました。
特徴的な丸い木製のフレームは、丸い台型に薄くスライスした木材を重ね合わせて巻きつけ圧縮&接着し、丸い枠を機械で削り出しています。
丸いフレームを木材で製作するのは不可能だと思っていたウェグナーは、当初、金属パイプで製作することを考えていました。
しかし、PPモブラーのソーレン・ホルスト・ペーターセンと職人ヘンリー・フィスカーが円形を作り出す機械を開発したことで、ウェグナーが不可能だと思っていたことが可能になりました。
▲ウェグナーのチェアは、現在でもほとんどが熟練の職人による手作業で作られている(サークルチェアを製造しているPPMobler工場にて)
放射線に広がる背もたれに掛けられたロープはナチュラル色かブラック、ロープを連結しているクリップ(金具)はステンレススチール、真鍮、またはブラックからセレクトが可能。
また、背に張られたロープは結び目を作ると、背にもたれたときに背中に当たって違和感を覚えるので、あえて結び目を作らずクリップ(金具)で締められています。
▲サークルチェアは横幅が1メートル以上(1,120mm)あるので、子供と一緒でも充分座れる大きさ
▼ハンス・J・ウェグナーはこちらでご紹介▼
㊹『アーロンチェア』(1994年)
出典:HermanMiller
アーロンチェアとは、アメリカの工業デザイナーのドン・チャドウィックとハーマン・ミラー社のデザイナーであり人間工学研究家のビル・スタンフがタッグを組んでデザインされ、ハーマン・ミラー社から1994年に発表されたオフィスチェアです。
世界で初めてシートにメッシュが採用されていて、それにより通気性が高く、体重分散により腰にかかる負担を極限まで軽減しています。
出典:HermanMiller
▲ワークチェアの研究開発をしている際に老人ホームを訪問したチャドウィックは、長時間寝ている姿勢をとり続けることによる「床ずれ」で悩む入居者を目の当たりにした。メッシュ素材を採用することにより、長い時間座っていても接触しつづけた身体を痛める問題を軽減することに成功した。
また、座る人ひとりひとりの体型や使うシーンに合わせて高さや角度などが細かく調整できるという高機能性がアーロンチェアの特徴で、シートの高さはもちろん、リクライニングの硬さ、角度、範囲、アームの高さや角度など、細かな調節が可能です。
出典:名作家具とデザインの話
▲アーロンチェアは進化を続け、2001年に骨盤部位を支える機能を搭載した「アーロンチェアクラシック」が、2016年には「アーロンチェアリマスタード」と呼ばれる一からパーツを設計し直した完全新作が発売された。
ビル・スタンフとドン・チャドウィックが開発したアーロンチェアは、その後急速にオフィス家具業界に普及し、またシートに使用されている「ペリクル」と名付けられた独自の通気性のあるメッシュ素材のおかげで、人間工学と素材革新の両方で先駆的な存在であることが証明されました。
出典:Kagg
▲ドン・チャドウィックとアーロンチェア。使う場所に合わせて色も選べる。
アーロンチェアはすぐに高機能ワークチェアのニュースタンダードになり、ニューヨーク近代美術館 (MoMA) に常設展示されています。
▼ドン・チャドウィックはこちらでご紹介!▼
㊺『トム・ヴァック』(1997年)
出典:daZeen
トム・ヴァックとは、1997年にイスラエルの建築家・デザイナーのロン・アラッドがイタリアの建築雑誌「Domus(ドムス)」の依頼を受けて制作し、同年にミラノ・サローネで発表した座面と背もたれが一体型のアルミニウム製のスタッキングチェアです。
ミラノ・サローネではじめてお披露目となったトム・ヴァックは、椅子として見せるというよりも、「ドムス」掲載用の芸術作品として、ミラノの広場にこのトム・ヴァックを67脚積み重ねてトーテムポールのようにして展示されていました。
出典:daZeen
▲ミラノの広場で67脚積み上げられてライトアップされた「トム・ヴァック」(1997年)
当時はアルミニウム製でバキューム製法による一体成形で作られていました。
波打った表面形状はシェル構造をさらに強くするためのものです。
出典:daZeen
▲量産化が難しく、当時500脚のみしか作られなかった。現在は「Vitra」社にて生産されている。
その後、アルミニウムで出来ていたチェアをポリプロピレン樹脂に素材を変更した上でサイズを少しだけ小さく調整してVitraから発表された事によって、金属を使った芸術家という印象から、インダストリアルデザイナーとしての地位を確立しました。
出典:daZeen
▲ポリプロピレン樹脂で作られたトム・ヴァックは、最大5脚までのスタッキングが可能。
▼ポリプロピレンてどんな樹脂?てかたはこちら!▼
▼ロン・アラッドはこちらの記事で紹介しています▼
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
わからないことや分かりにくい箇所があれば、ぜひお問い合わせよりご連絡ください。
次回もお楽しみに!