こんにちは、しけたむです!
この記事では
- 「有名なデザイナーズチェアについてもっと詳しく知りたい。」
- 「デザイナーとデザイナーズチェアの組み合わせも正しく理解したい。」
という皆様に向けて、これだけ覚えれば大丈夫!
絶対に知っておくべき有名なデザイナーズチェアについて画像で解説します。
▼デザイナーズチェアの前編はこちらから▼
デザイナーズチェアの歴史的名作⑭〜㉘
⑭『Pelican Chair(ペリカンチェア)』(1940年)
出典:ETERNITY MODERN
ペリカンチェアとは、1940年にデンマークの建築家で家具デザイナーの「フィン・ユール」によってデザインされたチェアで、まるでペリカンが羽を広げたような可愛らしいデザインが特徴的です。
発表当時はまだペリカンチェアという名称はついておらず、ユールは通常、家具の番号を設計された年にちなんで名付けていましたが、そのチェアの形状と呼びやすさから時が経つにつれて「ペリカン」というニックネームが椅子に定着しました。
▲ペリカンチェアのシート部分にはボタンが付いていて有り無しを選択できる。この写真はボタンの付いていないバージョン。チェアを複数脚並べると湖に集まるペリカンに見える。
特徴的な柔らかく有機的な形は、まるでペリカンの羽に包まれているかのような安らかな気持ちになります。
▲このモコモコ生地は世界中で大人気。座った時のサイズ感はこんな感じ。
今でこそ人気のペリカンチェアですが、発表当初の製造数量はごくわずかで、2001年にデンマークの家具メーカー『House of Finn Juhl』より再発売されるまでペリカンチェアの存在はほとんど忘れられていました。
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⑮『45 Chair(イージーチェア No.45)』(1945年)
45 Chair(イージーチェア No.45)とは、1945年にデンマークの建築家で家具デザイナーの「フィン・ユール」によってデザインされた木製の椅子です。
その彫刻のような美しい形状から「世界で最も美しいアームを持つチェア」と評されているチェアで、ユールがヴィルヘルム・ラオリッツェン建築設計事務所から独立後に最初にデザインした家具です。
イージーチェアNo.45の最大の特徴は、まさにこの世界で最も美しいとまで評される彫刻のようなアームで、背もたれから脚までに連続して有機的に湾曲した曲線は、人体に溶け込むように自然に馴染み、身体を緊張から解き放ちます。
出典:1stDIBS
▲まるで彫刻作品のような、見た目から木の優しい手触りが伝わってくるようなアームレスト
しかしこの美しいアームを持つが故に、イージーチェアNo.45は非常に製作難易度が高く、大量生産には不向きでした。
また、座面のシートは横から見ると木のフレームから浮いているように見えるデザインとなっていて、重々しい印象を感じないように、また横から見ても美しく感じるような美的感覚もフィン・ユール作品の特徴です。
▲座面の下が浮いているような構造となっており、軽やかな印象となっている
今日、この椅子はデンマークの家具デザインの中で最も革新的で象徴的な作品の1つと広く見なされています。
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⑯『プライウッドチェア DCW、LCW』(1945年)
▲全ての構成材に成形合板が使用されたダイニングチェア『DCW』
プライウッドチェア DCW、LCWとは、第二次世界大戦後の1945年にチャールズ&レイ・イームズによってデザインされた成形合板の椅子で、DCWは「Dining Chair Wood」、LCWは「Lounge Chair Wood」の略語となっています。
▲ラウンジチェアのLCWはDCWに比べて座面が低く、背板に体重を預けられる設計になっている。
プライウッド(Plywood)とは「合板(ごうはん)」のことで、合板は薄くスライスした単板(ベニヤ)を奇数枚重ね、接着した木質材料です。
木目がそれぞれ直角となるように重ねて接着することにより頑丈となり、歪みや反りが出にくいのが特長で、この合板に加工を施し、曲面を作り出したものを「成型合板(せいけいごうはん)」といいます。
出典:日清グループ
▲合板とは、丸太を薄くスライスしたベニヤの木目が交差するように奇数枚貼り合わせた板のこと。
出典:OPENERS
▲成形合板は、単板(ベニヤ)を奇数枚重ねてホットプレス機で加圧成形することで、座・背面の形など多種多様なデザインを製造することができる。
出典:shopstyle
▲成形合板の断面『プライウッドチェア LCW』
DCWとLCWは、チャールズ&レイ・イームズが自ら開発した成型合板製造機「カザムマシーン」で試行錯誤して完成させた椅子で、有機的で複雑な曲面を製作する成型技術によって身体にフィットする美しいカーブを実現しました。
背と座を繋ぐ木の脚部との組み合わせが座ったときの快適さだけでなく、なんとも魅力的なフォルムをつくりあげています。
出典:MAAKET
▲プライウッドチェアDCW、LCWの材質にはホワイトアッシュ、エボニー(バーチ材)、ウォールナットなどがあり、木目の豊かなバーチ材に塗装を施したレッド色もある。
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⑰『プライウッドチェア DCM、LCM』(1946年)
▲1946年の発売当時、その座面のデザインから「ポテトチップチェア」とも呼ばれたDCM
プライウッドチェア DCW、LCWが発表された翌年の1946年、チャールズ&レイ・イームズによって立て続けに発表されたチェアが『プライウッドチェア DCM、LCM』です。
それぞれ脚部がスチールとなっていて、DCMは「Dining Chair Metal」、LCMは「Lounge Chair Metal」の略称となっています。
適度にしなりのある成形合板の特性に加え、スチール製の脚部には天然ゴム製のショックマウントが装着されていて、このショックマウントが身体を預けた際に衝撃を吸収し、ラウンジチェアならではの快適な座り心地を実現します。
出典:Artsy
▲『LCM』の背面。座面と脚部の接触箇所に、天然ゴム製のショックマウントが装着されている。
ぱっと見で木製の固いイメージがするダイニングチェアですが、想像以上に座り心地も快適で長時間でも疲れにくい仕様になっています。
出典:dwell
▲シンプルなデザインのプライウッドチェアDCMは、どんなインテリアにもしっくりハマる。
⑱『ラウンドチェア(ザ・チェア/ PP501)』(1949年)
出典:Ernst H Interiors
ラウンドチェアとは、デンマークが誇る偉大な家具デザイナーであるハンス・J・ウェグナーによって1949年にデザインされた木製チェアで、通称である「ザ・チェア」という名前で有名です。
この椅子の最大の美しさは、アームと背もたれ部分をピタリと接合した「フィンガージョイント(※)」で、ジョイント部分を美しいデザインとして見せながら、全体としては優美な曲線を描く背もたれが世界の人々が「ザ・チェア」に魅了されている理由です。
※フィンガージョイントとは
両手を組み合わせて指を組んだ形に似ていることから「フィンガー(指)」と名付けられた木材同士の接合方法のひとつ。
木材の接合面をジグザグに加工することで接着面積が多くなるため、安定した強度を保つことができる。
出典:1stDIBS
▲アームと背もたれ部分は「ザ・チェア」が発表された当時から3つのパーツから成っていたが、フィンガージョイントの技術が十分では無く見た目が美しくなかった為、籐(とう)をぐるぐると巻いてジョイント部分を隠していた。1950年以降、仕様変更され現在に至る。
出典:SAVIDER
▲アームと背もたれのジョイント部分が籐を巻いて隠されていた初期の仕様。
そんなザ・チェアが世に知られたのは、1960年にアメリカ大統領選のテレビ討論会でジョン・F・ケネディがザ・チェアに座った姿が放映されたことがきっかけでした。
出典:Pinterest
▲腰痛を持っていたケネディは、楽に座ることができ、それでいて座っている自分が堂々として美しく見える椅子を探した結果、ザ・チェアにたどり着いたといわれている。
現在でもウェグナーの意志に忠実に従い、職人の手作業により一脚ずつ丁寧に作り上げられています。
手のひらにしっとりと馴染む繊細な曲線は、デンマークの家具工房『PPモブラー』のクラフトマンシップの賜物(たまもの)です。
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⑲『ウィッシュボーンチェア(Yチェア)』(1949年)
出典:okay art
「Yチェア」という通称で有名なウィッシュボーンチェアは、1949年にハンス・J・ウェグナーがデンマークの家具メーカー『Carl Hansen&Søn(カール・ハンセン&サン)』のためにデザインした木製チェアです。
ウェグナーが1945年にデザインした『チャイニーズ(チャイナ)チェア』がデザインの元となっていて、曲木技術が使用されたアームと一体化した背もたれと、1脚に120メートルもの長さのロープで丁寧に編み込まれたペーパーコードロープシートを備えています。
出典:ワイズカーサ
▲長く使って座面のロープが緩んできたら張替えが可能。15年~20年程度が張替えの目安。
出典:Bukouskis
▲デザインの元となった『チャイニーズチェア』(1945年)
「Yチェア」という通称は見たまんまですが、Y字型またはウィッシュボーン(V字の形ををした骨のこと)型の背もたれにちなんで名付けられています。
ウェグナーがデザインしたチェアの中でベストセラーとなったYチェアは、1949年のリリース以来継続的に生産されていて、世界で最も購入しているのはなんと日本なのだそうです。
その売上高は日本だけで全世界の4分の1以上を占めています。
Yチェアはシンプルさと快適さを兼ね備えた素朴で控えめな作品で、その優雅な曲線形は東アジアのデザインにモダニズムを融合したデザインの完成形とも言えます。
出典:MAARKET
▲現在では様々なカラーバリエーションがデンマークの家具メーカー『Carl Hansen&Søn(カール・ハンセン&サン)』から販売されている。
⑳『シェルチェア、シェルアームチェア』(1950年)
▲1950年にハーマンミラー社から販売されたシェルチェア。写真は若かりし日のチャールズ。
シェルチェア、シェルアームチェアとは、チャールズ&レイ・イームズがニューヨーク近代美術館(MoMA)が主催した「ローコスト家具デザイン国際コンペ」のためにデザインした、FRP製の「世界一有名な椅子」です。
1948年にイームズ夫妻はこのコンペに出品するため、もともと金属製のシェルチェアを作ろうとしていたようなのですが、なかなかうまくいかなかった際に、「FRP(※)」と呼ばれるガラス繊維で補強したプラスチック素材に出会います。
※FRP(Fiber-Reinforced Plastics)とは
「繊維強化プラスチック」のことで、「FRP」は「Fiber(繊維)でReinforced(強化した)Plastics(プラスチック)」の略語。
割れやすいプラスチックにガラス繊維を混入させることで、軽量で強度の高いプラスチックになる。
出典:アーロンチェアの庄交堂
▲『シェルチェア』はチャールズ&レイ・イームズにより、FRPを用いた革新的な大量生産方法を用いて製作された。
金属よりも軽く、丈夫でローコストな素材であるFRPを使用して、シェルアームチェア(※)を完成させました。
(※シェルチェアはアームチェアがまず誕生し、その後アームレスチェアが製作された。)
出典:MoMA
▲1949年にMoMAのコンペで発表されたイームズシェルアームチェア。脚には様々なバリエーションが考案されていた。
1950年の発売当時、シェルチェアは北欧の木の家具に比べてはるかに安価なデザイナーズ家具として、90年代初頭まで多くの住宅や公共施設で使われました。
しかし90年代に入ると、廃棄やリサイクルに手間がかかるFRPは環境に悪影響を及ぼすという考えから製造中止に追い込まれてしまいました。
数年後、シェルチェアはリサイクルしやすい「ポリプロピレン」というプラスチックの一種を使用して再登場します。
▼ポリプロピレンって何?て方はこちらから!▼
さらに現在では環境に負担の少ないFRPが開発され、アメリカの家具メーカー『Herman Miller(ハーマンミラー)』から購入が可能です。
▲シェルチェア、シェルアームチェアのバリエーションは多岐にわたる。
㉑『パパべアチェア(テディベアチェア)』(1951年)
出典:SUITE NY
パパべアチェアとは、1951年にデンマークの家具デザイナー「ハンス・J・ウェグナー」によってデザインされたチェアで、クマの足を連想させるようなむき出しの木製のハンドレストから「ベアチェア」、「テディベアチェア」と親しみを込めて呼ばれています。
先端部分のハンドレストが木で出来ているのは、手で撫でたり寄り掛かったりした際にファブリックが汚れないようにするためです。
その先端から脚にかけて流れるようなラインと後ろ姿の背中を包む愛らしい曲線は、まるでテディベアのぬいぐるみのように見るものを楽しませてくれます。
▲テディベアの爪にも、先端から見ると鼻のようにも見えるアームレストが最大の特徴
パパべアチェアは、張りの技術に優れていたデンマークの家具メーカー『AP Stolen』によって製造されていましたが、1970年代に廃業してしまいます。
しかしAP Stolenの下請け会社であった『PP mobler(PPモブラー)』が、2003年に創立50周年記念としてこのチェアを復刻させたことにより、再び注目を集めました。
▲愛らしいデザインが特徴的な『パパべアチェア』
500種類以上の椅子をデザインしたウェグナーが、晩年介護施設へ持ち込んだ椅子というだけあって座り心地の良さは彼の作品の中でも一、二を争うとまで言われています。
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㉒『ダイヤモンドチェア』(1952年)
出典:名作家具とデザインの話
ダイヤモンドチェアとは、1952年にイタリア生まれのアメリカ人デザイナー、彫刻家のハリー・ベルトイアによってデザインされたスチール製の椅子で、アメリカの家具メーカー『Knoll(ノル)』から発売されました。
ミッドセンチュリーの代表作の一つにも挙げられていて、フレームは1本1本異なる長さのスチールワイヤーを3次元に曲げて、その後ダイヤモンド型に溶接固定されています。
そのスタイリッシュなモダンなデザインから「空気と鋼の彫刻」とまで呼ばれました。
ベルトイアはスチールワイヤーで作られたこのチェアを
「これは空気でできたチェアなんだ。だから全ての空間はこの椅子をすり抜けちまう。」
と語り、金属造形に長け、溶接技術に天才的な才能を発揮していた彫刻家のベルトイアらしい作品となりました。
出典:Knoll
▲ダイヤモンドチェアにはハイバックタイプやオットマンなどのバリエーションがデザインされた。このハイバックタイプは見た目が鳥のように見えることから「バードチェア」とも呼ばれた。ちなみに赤いクッションは着脱可能。
ハリー・ベルトイアによる一連のワイヤーチェアシリーズは1952年にKnollのニューヨークにあるショールームに展示され、デザインに優れたチェアは発売時から人気が高く、上々な滑り出しとなりましたが、ここで大きな問題が発生しました。
なんと、チャールズ&レイ・イームズが1951年に発表したチェア『ワイヤーチェア(DKR)』にそのデザインが酷似しており、特許を侵害しているとハーマン・ミラー社から訴えられてしまったのです。
出典:VNTG
▲ハーマンミラーから販売されていた『ワイヤーチェア(DKR)』
それもそのはず、ワイヤーチェアはベルトイアがイームズオフィス在籍時の功績により開発され、製品化に至ったものだったのです。
皮肉な運命ですが、ベルトイア側のKnoll社とイームズ側のハーマン・ミラー社は裁判で徹底的に争いましたが、結局Knoll社側が敗訴し
「ハーマン・ミラー社からKnoll社にワイヤーチェアを作るライセンスを与える。」
という結果となってしまいました。
このようにして、ハリー・ベルトイアによるダイヤモンドチェアはミッドセンチュリーモダンデザインを代表する傑作チェアのひとつとして、現在もKnollで作り続けられています。
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㉓『Ant Chair(アント、アリンコチェア)』(1952年)
出典:media.liveauctiongroup.net
Ant Chair(アントチェア)とは、1952年にデンマークの建築家、デザイナーのアルネ・ヤコブセンが自身が建築した製薬会社「Novo Nordisk A/S(ノボノルディスク社)」の社員食堂のためにデザインした成形合板のチェアです。
その見た目から正式名称に『Ant(アント、蟻)』と名付け、「アリンコチェア 」という通称で呼ばれるヤコブセン屈指の傑作です。
▲丸い大きなテーブルにできるだけたくさん並べられるように、前が1本後ろが2本という3本脚で設計されたアントチェア。現在は4本脚タイプも販売されている。
アントチェアはチャールズ&レイ・イームズに影響を受けていたヤコブセンが手がけた最初の成形合板の製品です。
背と座が一体化したアリのようなデザインは、試作の過程で背と座のつなぎにヒビや歪みが生じてしまった箇所を左右から取り除いていくうちに、くびれのあるアリのようなデザインになったことから誕生しました。
当時、かなり特徴的なデザインだったアントチェアに対して、製作元の『Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)』では製品化に対して懐疑的な声が上がりました。
しかしヤコブセンは、
「売れ残ったらぜんぶのチェアを俺が買い取るから、とりあえず作ってくれ!」
とフリッツ・ハンセンにお願いをして、なんとか製作されることが決まったそうです。
発売後、アントチェアは薄い成形合板と細いスチールレッグで作られた軽さと、何脚もスタッキング(重ねて収納すること)できる機能性で話題となり、ロングセラー商品となりました。
出典:Connox
▲当初は3本足だったが、足を組むとぐらつく場合があり4本足も製作された。
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㉔『Series 7 Chairs(セブンチェア)』(1955年)
出典:Fritz Hansen
セブンチェアとは、1955年にアルネ・ヤコブセンによってデザインされた「世界で一番売れたスタッキングチェア」とか「セブンチェアを超える椅子は未だに存在しない」とか、色んなキャッチコピーが付けられている、とにかく世界で多くの人に愛され続けている成形合板の椅子です。
アントチェアのバリエーションのひとつとしてデザインされたため「アントチェアの後継」とも呼べるチェアで、デンマークの家具メーカー『Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)』によって独占的に生産されています。
セブンチェアは、通常の4本脚を持つ「3107モデル」、キャスター付きのオフィスチェアである「3117モデル」、バースツールの「3187モデル」など、豊富なバリエーションが用意されていることも魅力の一つです。
出典:Fritz Hansen
▲現在ではカラーバリエーションもさまざま。専用のクッションも販売されている。
日本ではあまり知られていませんが、セブンチェアは1963年に写真家ルイス・モーリーが撮影したモデルの「クリスティーン・キーラー」の有名な写真で使用されていたと広く信じられていて、この写真集の出版後にセブンチェアの売り上げが爆発的に増加したそうです。
出典:ArtBasel
▲セブンチェアの背中にハンドホールドカット(持ち手の穴)がある?
しかし、実はこの写真で使用されているチェアは模倣品で全くの別物でした。
キーラーの座っているチェアの背中にはハンドホールドカットがあり、セブンチェアを知っている人が見たら違うことは明白なのですが、ヤコブセンやフリッツ・ハンセン社が訴訟したなどの記録が無いことから、結果的に売り上げにつながった為に黙認したと言われています。
㉕『Eames Lounge Chair(ラウンジチェア)』(1956年)
▲発売当時の価格は約400ドル。フォードの新車が約600ドルだったので、一般家庭には手の出ない富裕層向けのチェアだったと言える。
Eames Lounge Chair(ラウンジチェア)とは、1956年にチャールズ&レイ・イームズによってデザインされた成形合板のラウンジチェアで、正式名称である「Eames Lounge Chair」の頭文字をとって「ELC」とも表記されます。
イームズ夫妻が座り心地の良いチェアについて思い描いたとき、「一塁手のミットのように温かく包み込むような外見にしたい」ということから、重厚なレザーを使用したまさに包まれるようなデザインのチェアとなりました。
ラウンジチェア&オットマンは、イームズ夫妻が全米のテレビ番組『HOME(ホーム)』に出演した際に初めて紹介され、たちまちイームズ夫妻とこのチェアは有名になります。
有名人となったイームズの家具はますます飛ぶように売れるようになりましたが、それでもなお夫妻は、丁寧な仕事と手作りのディテールにこだわり続けました。
出典:dazeen
▲チェアの座面や背もたれには、座る者を包み込むかのように成形合板が使用されている。レザーや本体のカラーはいくつかのバリエーションから選択可能。
成形合板とレザーを組み合わせたこのラウンジチェアは、現在もミッドセンチュリーを象徴するアイコン的な家具として、アメリカの家具メーカー『Herman MIller(ハーマン・ミラー)』から販売されています。
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㉖『バタフライスツール』(1956年)
出典:柳工業デザイン研究室
バタフライスツールとは、1956年に日本のインダストリアルデザイナー柳宗理(やなぎそうり)が発表した成形合板のスツールで、2枚のプライウッドを金属の棒で連結したシンプルな構造で、蝶(バタフライ)が羽を広げたような曲線を描く形が特徴的です。
合板に曲げを加えることで強度が増すという点に着目した宗理は、座面と脚とが一体化した2枚の合板を金具で繋ぐというバタフライスツールの形を思いつきます。
1954年に仙台の『工芸指導所(こうげいしどうしょ)』で成形合板を研究していた技術者の指導のもと、日本で初めて成形合板を実用化した山形県にある家具メーカー『天童木工(てんどうもっこう)』が製造を行い、3年近くの歳月をかけてバタフライスツールは完成しました。
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バタフライスツールは発表の翌年の1957年、ミラノで開催される国際美術展覧会「ミラノ・トリエンナーレ」で金賞を受賞し、さらに1958年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクション(永久所蔵品)に選定されています。
出典:Vanilla
▲成形合板の美しいカーブは2本のボルトと1本の真鍮ステーだけで留められている。成形合板に使用されているメープル材は時間経過と共に色味の変化も楽しめる。(右:新品、左:17年使用)
バタフライスツールは『天童木工』と、1999年からはスイスの家具メーカー『Vitra(ヴィトラ)』でも制作されています。
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㉗『PK22』(1956年)
出典:2DESIGNLOVER
PK22とは、1956年にデンマークの家具デザイナー「ポール・ケアホルム」がデザインし、今は無きデンマークの家具メーカー『アイヴィン・コル・クリステンセン社』から発表したステンレススチール製の椅子です。
スチールのフレームは、大量生産を可能にするために幾つかのパーツに分けられていて、組み立て・分解が可能となっています。
出典:DANKE
▲いくつかのパーツに分解できるということは、輸送する上でもコストを抑えることができる。
PK22は大きな反響を得て、1957年の美術展覧会『ミラノ・トリエンナーレ』でグランプリを獲得しました。
ラウンジチェアのフレームはサテン仕上げのステンレススチール、シート部分の素材は籐(とう)の他にもレザー、スエード、キャンバス生地から選ぶことができます。
出典:Fritzhansen
▲PK22はミース・ファン・デル・ローエの『バルセロナチェア』から強い影響を受けていたそう。
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㉘『SUPER LEGGERA(スーパーレジェーラ)』(1957年)
出典:Cassina-ixc
スーパーレジェーラとはイタリアの建築家でありデザイナーのジオ・ポンティにより1951年にデザインされ、何度も試作を繰り返しながらイタリアの家具メーカー『Cassina(カッシーナ)』より1957年に発売された木製の椅子です。
スーパーレジェーラとは「超軽量」を意味する言葉であり、その重さはなんとたったの1,700グラムという、こどもが指一本で持ち上げることが出来る軽さでした。
出典:klat
▲発売当時、軽さをアピールするために子供が指一本で持ち上げている様子を写した広告写真
軽量ながら、トネリコという粘り気のある堅牢な木材を使用することにより耐久性を確保して、「軽くて丈夫」というデザイン性と機能性を両立させた、まさにジオ・ポンティの芸術作品とも呼べる傑作となりました。
シート部分に張られている「籐(とう)」(※)は、現在では貴重な技術とされる手作業での編み込みがされています。
チェアフレームを組み立てた状態で工場から籐編み職人の工房まで配送し、シート部分の籐をフレームに編み込んだ後、再び工場へ戻すという手間のかかる工程を経て、ひとつひとつ丁寧に作られているのです。
出典:D-plus stock
▲スーパーレジェーラのシートの藤の編み込みは、機械生産では行えない緻密な作業。脚は三角形になっていて、その一辺は18mmしかないという細さ。
※籐(とう)とは
籐は、広義にはヤシ科トウ亜科の植物のうち、つる性の茎を伸ばす植物の総称(約600種類)で、英名では「ラタン」という。
籐の繊維は植物中で最長かつ最強ともいわれ、家具の材料として人気が高い。
出典:Landmark
▲籐の茎は樹木に比べて成長が早く5~10年で家具などに使用できる大きさに成長するため、地球にやさしいエコ素材として注目されている。
▼ジオ・ポンティはこちらの記事で紹介しています▼
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
わからないことや分かりにくい箇所があれば、ぜひお問い合わせよりご連絡ください。
次回もお楽しみに!
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